地理とSDGs<4>(全4回)

 

「地理的な見方・考え方」とSDGs

 

広島大学大学院教授 淺野 敏久

 

高校の地理教育に期待すること

 

 ここまで「地理的な見方・考え方」に関連して,思いつくままに文章を書いてきた。地理の特徴として,文系・理系にまたがる科目や学問であるので,総合的な視野を本来的に持っている。世界を総合的な観点から学ぶ上で地理は優れた面をもっており,その意味でも地理総合の必修化は望ましいことであったと思う。次いで,学習指導要領で求められる社会的事象の「地理的な見方・考え方」について,新型コロナウイルスの感染拡大によって露わになったさまざまな出来事から,「地理的な見方・考え方」の大事さを考え直させられたということと,地理総合の柱の1つといってもよいSDGsの学習において,「地理的な見方・考え方」がどう関わるのかということについて述べた。国や地域ごとに問題の現れ方や対応の仕方に違いがあり,問題の理解や解決には,「地域」の特性を視野に入れて臨むことが望まれる。また,地域の違いがあるとしても,その背後に世界経済や国際政治の利害関係が深く関わっていることがあるので,さまざまな空間スケールでの「空間的相互依存作用」を意識しておく必要がある。この空間的相互依存作用は,資源の分布や産業の立地,大都市などの消費地の立地,人口の分布などに基づいてつくられるものなので,「位置や分布」は社会的現象を理解するための重要なキーワードとなる。都市の中の特定の地区や,特定の民族や文化にとって意味のある聖地など,「場所」論的な視点も大切である。そして,地球規模の環境の変調が懸念され,人間の環境に対する態度を変革することも求められている現代において,人間と自然の関係を問い直すことはとても重要なことである。そのためにはこれまでの人間と自然の関係を理解し,今どうなっているのか,今後どうなっていくのかを見通すことが必要になってくる。「人間と自然環境との相互依存関係」は,歴史的な視点と空間的視点の双方から捉えなおすことが求められている。新型コロナウイルスの問題にしても,SDGsの問題にしても,地理教育からアプローチする意義は大きい。

 

 ここまで「地理的な見方・考え方」について理屈っぽく述べてきたが,最後に高校の地理教育に期待する個人的な思いを書いて終わりたい。それは,「地理的な見方・考え方」は机上で理解できれば十分なのではなく,できることならばフィールドから身体で理解してほしいと思う。地理的な知識が豊富で,理路整然と議論を展開できたら,それはそれですごいことではあるが,その前に世界や地域のことに興味関心を持っていてほしいし,世界や地域のことを見たり聞いたり触れたりすることが好きな若者に,次の世代を担ってもらいたい。世界のあちこちを旅してみたい,知らない世界を知りたい,見てみたい,その土地の人と触れ合ってみたいという若者が増えることが,何より望ましいと思う。地理総合が必修化され,結果として地理嫌いが増えるのではなく,地理好きが増えることにつながってほしいと心から願っている。