目標9と関連づけて考えよう!

● デジタル庁発足(2021年9月2日の記事より)

 

 

今月のニュース記事

 

● デジタル庁発足

 

 行政のデジタル化の司令塔となるデジタル庁が発足した。約600人体制で、うち約200人を民間出身者が占める。デジタル庁は、菅首相が昨年9月の自民党総裁選で掲げた「看板政策」。コロナ禍で役所の窓口に行く手間が問題となるなか、「すべての行政手続きがスマートフォンで60秒以内にできる」ことをめざすという。各省庁にまたがる情報システムについて勧告する権限があり、予算も取りまとめるが、デジタル庁に権限を奪われる各省庁の抵抗も予想され、司令塔の役割を十分に発揮できるのか不安視する見方もある。国会審議では個人情報保護のありかたなどの課題が浮かび上がったが、議論は深まらないままだ。

 

(第一小論net〈ニュースダイジェスト〉2021年9月2日の記事より)

 

 

 

指導のポイント

 

 「今月のニュース記事」と関連のある目標について、指導の前に押さえておいていただきたいポイントを解説しています。まずは、各目標の概要やめざすところをご確認ください。

 

 2021年9月にデジタル庁が発足した。そのミッション(使命)は、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化を。~一人ひとりの多様な幸せを実現するデジタル社会を目指し、世界に誇れる日本の未来を創造します~」となっている。ミッションを掲げる省庁は非常に珍しく、SDGsを推進する組織としての色が濃く出ていると言える。

 

 わが国のデジタル化は世界的に見て遅れをとっている。「世界デジタル競争力ランキング」調査によると2021年のランキングでは調査64か国中28位となっている(*1)。新型コロナウィルスに対する補助金や交付金などの給付に時間を要したことは、デジタル化の遅れも大きな原因であると言われている。

 

 SDGsの推進のためにはデジタル化が必要不可欠であることは、多くのゴール、ターゲットにかかわっていることからもわかる。SDGs9番「産業と技術革新の基盤をつくろう」では、産業インフラの構築が随所に登場するが、その鍵を握っているのがデジタル化の推進であろう。IOT(Internet of Things)やAI(Artificial Intelligence)など、関係する技術が産業界のみならず、私たちの日常生活にも深く関係してきている。こうした状況の中、デジタル化の推進は人々の生活をより豊かに、かつ効率的にするためにその開発と整備が急がれる。

 

 *1…世界デジタル競争力ランキング
https://www.imd.org/centers/world-competitiveness-center/rankings/

 


 

 

 

学習者用解説

 

 「今月のニュース記事」を学習者用にかみ砕いて解説しています。

 

 わが国のデジタル化は世界的に見ても遅れていると言われています。例えば、引っ越しをしたり転職をしたりする際に必要なさまざまな書類提出は、わが国ではほとんどが「紙」に書いて「窓口」に提出する形式となっています。当たり前がゆえにその不便さを感じている人は少ないかもしれません。ヨーロッパの小国エストニアでは、行政手続きのほとんどがデジタル化されていると言われていて、人々は役所に行かずとも手続きが可能なのです。

 

 デジタル化はSDGsの推進にとって非常に重要です。まずは、書類、つまり紙を必要としないことで、過度な森林伐採を防ぐことにつながります。また、役所に多くの人が「行く」ことで、その移動手段による温暖化ガスの排出などにつながってしまいますが、デジタル化はそれを防ぐことができます。さらに、障がいなどがあり移動することに困難を伴う人にとって、デジタル化はその不平等を解消することに貢献するかもしれません。

 

 デジタル化はさまざまなSDGsゴール・ターゲットに貢献するでしょう。SDGs9番「産業と技術革新の基盤をつくろう」には、社会のインフラ開発が盛り込まれています。インターネット環境の整備などのデジタル化の推進は、このゴールに貢献します。12番「つくる責任つかう責任」では、食品ロスの半減や廃棄物の管理の徹底などが盛り込まれています。どこでどのくらい無駄や廃棄が発生するのかを自動的にデータを収集することができれば、効率的な対策を施すことができるでしょう。4番「質の高い教育をみんなに」では、すべての人に質の高い教育を提供することが目指されています。しかし、今回の新型コロナウイルスパンデミックの中、インターネット環境が整っていないためにオンラインなどで授業を受けることができない子どもたちが、世界ではもちろん、日本でも少なくなかったと思います。このほかにもデジタル化は、多くのSDGsの解決につながることが期待されます。

 

 今年9月、わが国政府に「デジタル庁」が発足しました。マイナンバーカードに関するシステム構築、各種公的証明の電子化、電子署名など、人々の生活をより便利にするためのさまざまな仕組みづくりを担うことになります。しかし私たちの生活が便利になる一方で、個人情報が流出したり、このような環境の便利さを享受できる人とそうでない人の格差を生んだりする可能性があるなど、デジタル化の推進には慎重になるべき側面も多くあると言えるでしょう。

 

 

 

【問いかけ例】

 

Q.デジタル化で私たちの生活はどう変わるだろうか?

* 生徒が実感を持ちやすいテーマである学校の授業や受験(出願等)に関するデジタル化について変化を想像させることで、デジタル化のメリットデメリットが理解しやすいと考えられる。加えて、将来的に必要となる各種行政関連手続きについても家庭や地域でヒアリングするなどして、生徒に具体的なイメージを持たせることも一つの工夫である。

 

Q.なぜわが国はデジタル化が遅れていると言われているのか?

* 「世界デジタル競争ランキング」ではわが国は64か国中28位となっている。伝統的な行政手続方法や書類重視の商慣習、情報関連人材やリーダーシップを発揮できる人材の育成など、各方向から複眼的に考えさせつつ、「当たり前」を疑うことの重要性にも気づかせたい。

 

Q.デジタル化するデメリットはどんなことが考えられるだろうか?

* システム開発や移行に莫大な予算が必要であること、個人情報流出のリスクに晒されること、情報格差を生む可能性があること、データが悪用される可能性が大きくなること、などが考えられる。国家戦略として推進されている施策であっても、そのリスクやデメリットを考えて批判的に見る目を養いたい。

 

 

 

オリジナル資料

 

 〈資料1〉は、「学習者用解説」と、「生徒への問いかけ例」をまとめたプリントです(A4×2枚)。〈資料2〉は、その月に取り上げるゴールに関連する「入試小論文過去問題」を紹介します。