目標7・13と関連づけて考えよう!

● 国内初 「水素で走る電車」公開(2022年2月19日の記事より)

 

 

今月のニュース記事

 

● 国内初 「水素で走る電車」公開

 

 水素から生まれた電力で動く「燃料電池電車」の試験車両を、JR東日本が公開した。3月下旬から燃費効率や安全性を検証する実証走行を始め、2030年の導入をめざす。公開された試験車両「HYBARI(ヒバリ)」は、燃料電池で発電するほか、ブレーキ時に生まれる電力も蓄電池にため、二酸化炭素を出さずに走る。水素約40キロで、約140キロの距離を走るという。燃料電池車「MIRAI(ミライ)」を市販するトヨタ自動車、蓄電池に強い日立製作所と開発した。2両編成で、開発費は約40億円。外観は、水素の化学反応で生じる水をイメージし、内装は、山や川などの自然をイメージした緑や青を基調とした。鉄道の脱炭素化の一環で、軽油で走るディーゼル車両からの置き換えを想定している。

 

(第一小論net〈ニュースダイジェスト〉2022年2月19日の記事より)

 

 

 

指導のポイント

 

 「今月のニュース記事」と関連のある目標について、指導の前に押さえておいていただきたいポイントを解説しています。まずは、各目標の概要やめざすところをご確認ください。

 

 台風の激甚化、集中豪雨による洪水の頻発、乾燥による山林火災の発生、農業生産への悪影響など、私たちの目前に気候変動が顕在化している。SDGsではそれらの原因になっている温室効果ガスの排出削減に取り組まなければならないことがターゲット13.2に示されている。

 

 昨年11月英国グラスゴーで開催されたCOP26では、産業革命以降の気温上昇を「1.5℃以内」に抑えるようめざすことが議題となった。このことは、2015年のCOP21の「パリ協定」で目標とされた「2℃以内」と比較して世界の気候変動の深刻さが反映されていると言える。

 

 SDGs7.2には「世界の再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大する」ことが示されており、再生可能エネルギーの技術開発と実装が強く求められている。わが国は昨年10月に「エネルギー基本計画」を改訂した。計画では2030年に温室効果ガス排出46%削減、2050年カーボンニュートラルの実現が盛り込まれた。そのため2030年の電源比率として2019年に18%だった再生可能エネルギー比率を2030年に36~38%まで引き上げる野心的な目標となった。

 

 その中で、太陽光、風力、水力、地熱などの既存の再生可能エネルギーの拡充に加えて、水素発電が注目されている。水素発電にはいくつかの方法があるが、総じて水素を燃焼させて空気中の酸素との化学反応により発電する方法である。クリーンな発電方法であるだけでなく、石炭等に混ぜることで温室効果ガスの排出を削減させる効能も併せ持つ。

 

 今回試験導入されたJR東日本の「水素電車」は温室効果ガス排出削減に大きく寄与する取り組みである。貯蔵や輸送をはじめとした水素発電のインフラ構築が早急に求められるだろう。

 

 


 

 

 

学習者用解説

 

 「今月のニュース記事」を学習者用にかみ砕いて解説しています。

 

 「気候変動」という言葉を耳にすることが多くなってきたと思います。オーストラリアやカリフォルニアでの大規模な森林火災や世界各地で頻発している洪水被害などのニュースを目にすることも多くなってきたのではないでしょうか。わが国においても、強大化した台風や洪水の被害が全国各地で毎年のように発生しています。その原因は地球温暖化だと言われており、二酸化炭素などの「温室効果ガス」の排出増加が大きくかかわっています。

 

 SDGs13番「気候変動に具体的な対策を」では、世界中で温室効果ガスの排出を減らしていくことが盛り込まれています。2015年にフランス・パリで行われたCOP21(国連気候変動枠組条約締約国会議)では、産業革命以降の地球の平均気温の上昇を2℃以内、できれば1.5℃以内に抑えることという世界的な合意がなされました。さらに、昨年11月にイギリス・グラスゴーで開催されたCOP26では、さらに踏み込んで1.5℃以内をめざすべきだという議論がなされました。このように、世界は温室効果ガス排出を削減する「脱炭素」社会の実現に向けて大きく動いています。

 

 わが国においても、2020年10月に菅首相(当時)が、2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」をめざすことを宣言し、そのために2030年までに温室効果ガスの排出を2013年比で46%削減することが追って示されました。

 

 しかしながら、これは簡単なことではありません。私たちの日常生活に欠かせない電気を作る際に出される二酸化炭素を劇的に減らしていくことがまず重要になってきます。現在、わが国では石炭や天然ガスなどによる「化石燃料」による火力発電が全体の3/4を占めています。化石燃料による発電は二酸化炭素を大量に排出します。そこで二酸化炭素をあまり排出しない再生可能エネルギー発電へ転換する必要があります。再生可能エネルギーとは、太陽光、風力、水力、地熱などからの発電を指しますが、2019年は発電量全体の20%程度を占めています。昨年発表された「エネルギー基本計画」では、これらの再生可能エネルギーを2030年には36~38%まで引き上げることをめざすことが示されました。SDGs7.2には「世界の再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大する」ことが示されており、水素発電など新しいエネルギー源の開発が求められています。

 

 このような背景の中で、今回JR東日本が試験導入する「水素電車」は、水素と酸素を化学反応させて電気を作り出す「燃料電池」を使って動かす電車で、非常にクリーンな電車と言えます。このような燃料電池が普及することが、脱炭素社会の実現に大きく寄与するでしょう。

 

 

 

【問いかけ例】

 

Q.再生可能エネルギーの現状はどうなっているのだろうか?

* 世界的に脱炭素が求められており、自動車のEV化や電源の再生可能エネルギー比率を高めていくことが推進されている。しかし、風力や太陽光などの自然エネルギーは環境に影響され不安定であることがデメリットとなる。加えて、わが国では外国と比べて電気の価格が高くなっており、諸外国に比べて普及が遅れているのが現状である。再生可能エネルギーのメリットだけではなく、デメリットや推進する際の障壁について現実的な問題も含めて総合的に考えさせたい。

 

Q.太陽光発電の未来は?

* 現状では再生可能エネルギーの中で最も設置しやすい電源となっており、普及率が高まっている。しかし一方で設置場所が限られてきており、環境や生態系を破壊して太陽光発電を設置する動きもみられる。また、寿命を迎える太陽光パネルの廃棄やリサイクル方法の問題も今後出てくる可能性がある。個人宅の屋根設置も含めた今後の普及について、そのメリットだけでなく、デメリットについても考えてほしい。

 

Q.風力発電の未来は?

* 陸上面積が限られる日本では、洋上風力発電が注目されており、すでに多くのプロジェクトがスタートしている。しかしながら、主要技術を海外メーカーが保持している中で、メンテナンスや建設工事などの関連産業を国内でどう作り上げていくかや、漁業などへの影響などが課題となってくる。

 

 

 

オリジナル資料

 

 〈資料1〉は、「学習者用解説」と、「生徒への問いかけ例」をまとめたプリントです(A4×2枚)。〈資料2〉は、その月に取り上げるゴールに関連する「入試小論文過去問題」を紹介します。