目標5・8と関連づけて考えよう!

● 育休給付金 10年で3倍近く増(2022年4月1日の記事より)

 

 

今月のニュース記事

 

● 育休給付金 10年で3倍近く増

 

 育児休業を取得した人への国の給付金が急増している。総額は10年間で3倍近くになり、対象者への育休取得の意向の確認が義務づけられる今年4月以降はさらに伸びる見通しだ。雇用保険でまかなってきた資金が不足する心配もあり、厚生労働省は、財源について議論を始める。育休は、子が1歳になるまで夫婦のどちらも取れる。育休開始から半年間は、普段の賃金の67%(7か月目以降は50%)の給付金が、雇用保険の「育児休業給付事業」から払われる。原資は会社と労働者が折半で払う保険料で、一部を税金で補っている。厚労省によると、出生数は減る傾向にあるが、出産しても仕事を続ける女性は増えており、受給者は10年間で倍増している。また男性の育休取得者も10年前の15倍に増えているという。

 

(第一小論net〈ニュースダイジェスト〉2022年4月1日の記事より)

 

 

 

指導のポイント

 

 「今月のニュース記事」と関連のある目標について、指導の前に押さえておいていただきたいポイントを解説しています。まずは、各目標の概要やめざすところをご確認ください。

 

 政府が育児休業(育休) 取得を推進し、育休を取得しやすくなったことで、女性が出産後も仕事を続けやすくなった。記事にあるように、受給者の増加に伴い給付額が3倍近くとなったことへの対策は当然必要であるが、女性が育休を利用しやすくなったことは、社会にとって、個人のキャリアを考えるうえでも非常にメリットがある。また、男性の育休取得が推進されている。2010年はわずか1.4%であった男性の育休取得率も、2020年には12.7%と急上昇している(*1)。しかしながら、世界的にはまだ非常に低いレベルである(*2)。

 

 2022年4月から「改正育児・介護休業法」が施行され、子どもが生まれてから8週間以内に最大4週間まで取得できる「出生時育児休業」の新設や、企業による従業員への育休取得の意向確認の声かけが義務化された。「働くことと出産・子育て」の関係がさらに円滑に進むようになることを期待したい。

 

 SDGs8番のターゲット8.5には「男性及び女性の完全かつ生産的な雇用」が示されている。特にわが国では、将来の生産年齢人口の急速な減少を補うには、できる限り労働市場から退出しないで済む環境を整える必要があるだろう。また、SDGs5番では、男女差別の撤廃、世帯内の役割分担、男女平等なリーダーシップの機会の確保が示されている。収入や立場にだけでなく、権利としての公平性を担保することは当然のことだろう。

 

 「子育ては女性の仕事」というわが国の慣習的な価値観を払拭(ふっしょく)するための一つの手段として、このような給付や制度を充実させていく必要があるだろう。

 

*1…ニッセイ基礎研究所『男性の育休取得の現状-2020年は過去最高で12.7%、5日未満が3割、業種で大きな差』
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=68650?pno=2&site=nli

 

*1…ユニセフ報告書『Are the world’s richest countries family friendly?』
https://www.unicef-irc.org/publications/pdf/Family-Friendly-Policies-Research_UNICEF_%202019.pdf

 

 


 

 

 

学習者用解説

 

 「今月のニュース記事」を学習者用にかみ砕いて解説しています。

 

 出産・育児と労働との関係は、女性だけにとどまらず、男性はもちろんわが国の社会全体において大きな問題となっています。これまでは、仕事を続けたいと思っても、出産を機に仕事を辞めざるを得ない状況になってしまう女性が少なくありませんでしたが、現在は政府が「育児・介護休業法」という法律を定め、育児休業(育休)という制度を設けています。育休は子が1歳になるまで夫婦のどちらも取ることができます。育児休業給付金として、育休開始から半年間、普段の賃金の67%(7か月目以降は50%)の給付金を受け取ることができます。この給付金により、出産後に女性が仕事を続けやすくなりますし、男性の育休取得も推進されるでしょう。しかし、育休取得率を見ると、女性は81.6%に対して男性は12.7%と、最近上昇しているものの非常に低くなっています。わが国は「男は外で働き女は家で家事」といった伝統的な価値観がいまだに残っています。このことも男性の育休取得率が低い要因の一つだと言えるでしょう。男性の育休取得を促進していくことは、今後の大きな課題です。

 

 一方で、わが国は急速に少子高齢化が進んでいます。その中でも生産年齢人口(15~64歳)の将来的な減少が大きな問題です。2020年に約7,400万人だったのが、2060年には約4,800万人と、約3分の1の生産年齢人口が失われてしまいます。このことは、産業力の維持にとどまらず、さまざまな社会保障制度の維持にも厳しい課題を突き付けることになるでしょう。このような側面からも、出産・育児によって仕事を辞めなければならない人をできるだけなくすことがとても重要なのです。

 

 SDGs8番「働きがいも経済成長も」では、そのターゲットの中に「男性及び女性の完全かつ生産的な雇用」が示されています。男女の差なく雇用を維持していく必要があるのです。また、SDGs5番「ジェンダー平等を実現しよう」では、男女差別の撤廃、世帯内の役割分担、男女平等なリーダーシップの機会の確保が示されています。「男は外で…」といった価値観を改め、役割分担の中で夫婦が分担して家事を行っていくことがわが国でも当たり前とならなければいけません。また、「ジェンダーギャップ指数」にも示されているように、わが国では働くうえでの男女平等が実現されていません(*1)。役割、賃金、昇進など、さまざまな点において男女差が大きく残っている企業が少なくありません。これらを解消していくことで、生産年齢人口の減少を補うことにとどまらず、より生産的な労働の実現や性別によらない能力の発揮が実現されていくことでしょう。

 

*1…ジェンダーギャップ指数
https://www.weforum.org/reports/global-gender-gap-report-2021

 

 

 

【問いかけ例】

 

Q.どうすれば男性の育休取得率が上昇するだろうか?

* 男性の育休取得率は上昇を見せているものの、諸外国に比べてまだまだ低い値である。伝統的な価値観の解消にとどまらず、企業経営の面におけるメリットや社会全体で機運を高めていく方法など、さまざまな角度から考えさせたい。

 

Q.生産年齢人口の減少はどのようにすれば補えるだろうか?

* 生産年齢人口の減少はわが国では避けて通れない問題となっている。出産・育児による女性の労働市場からの退出阻止だけでなく、定年制の延長・廃止、外国人労働者の受け入れ、IT化による省労働力化など、さまざまな視点で可能性を探りたい。

 

Q.ジェンダーギャップ指数のランキングをどうすれば向上できるだろうか?

* ジェンダーギャップ指数では、わが国の世界的なランキングは156か国中120位である。特に「政治(議員の人数等)」「経済(収入差等)」面においてその格差が際立っている。これらの問題を解決するにはどのような方法があるだろうか。生徒のフレッシュな感性を大事にさまざまなアイデアを考えさせたい。

 

 

 

オリジナル資料

 

 〈資料1〉は、「学習者用解説」と、「生徒への問いかけ例」をまとめたプリントです(A4×2枚)。〈資料2〉は、その月に取り上げるゴールに関連する「入試小論文過去問題」を紹介します。