● 食料自給率 過去最低水準37%(2021年8月26日の記事より)
今月のニュース記事
● 食料自給率 過去最低水準37%
農林水産省は、2020年度のカロリーベースの食料自給率が前年度から1ポイント低下し、37%だったと発表した。1993年度と2018年度に並ぶ過去最低の水準。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、家庭食の増加など自給率向上に寄与する要因もあったが、マイナス面のほうが上回った。自給できているコメの需要減少や、ただでさえ輸入頼みの小麦の生産量が落ち込んだこと、さらに、コロナ禍での外食需要減少に伴う消費の落ち込みも影響したと見られる。一方、生産額ベースの自給率は前年度から1ポイント上昇して67%だった。単価の高い豚肉や鶏肉、野菜、果実の生産額が増加した一方、魚介類などの輸入額が減少したため4年ぶりに上昇した。19年度のカロリーベースにおいて、東京都は都道府県別の統計として初めて0%を記録した。
(第一小論net〈ニュースダイジェスト〉2021年8月26日の記事より)
指導のポイント
「今月のニュース記事」と関連のある目標について、指導の前に押さえておいていただきたいポイントを解説しています。まずは、各目標の概要やめざすところをご確認ください。
わが国の食料自給率の低下が続いている。1965年度は73%であったものの、減少を続け2020年度は37%までに低下した(カロリーベース)。品目別では、コメや野菜などは高い水準にあるが、私たちが日常的に口にする小麦や畜産物などでは、それぞれ15%、16%とかなり低い割合になっている。私たちの食卓がその多くを海外からの輸入に頼っている現状が続いている(*1)
SDGs2番は「飢餓をゼロに」であり、食料の安全保障と栄養改善を実現し持続可能な農業を促進することが目標とされている。しかし、2020年度の世界の飢餓人口は最大で推計8億1,100万人(*2)と、全人口の実に1割が十分な栄養を確保できていない現状があり、特にアフリカなどの地域で顕著である。新型コロナウイルス蔓延の影響も大きい。
一方、多くの先進国では食品ロスが大きな問題となっている。日本では食品の多くを輸入に依存していながら、年間約600万トンの食品ロスが発生しており(*3)、世界の食料事情は不均衡な状態にあるといえる。
加えて、今後予想される人口増加や気候変動などにより、食料の安定的で持続可能な生産が喫緊の課題となっている。食料の地産地消を推進することは、輸送などで発生するCO2の低減なども含めて、持続可能な社会づくりに貢献する一つの有効な手段であると言えるだろう。
*1…農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/012.html
*2…ユニセフ
https://www.unicef.or.jp/news/2021/0140.html
*3…農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/press/shokusan/kankyoi/210427.html
学習者用解説
「今月のニュース記事」を学習者用にかみ砕いて解説しています。
2020年、世界の飢餓人口は前年度より増加し、推計で最大8億1,100万人となりましたが、これは、全人口の実に1割にあたります(*1)。新型コロナウイルス蔓延によって、食料の生産や物流などに障害が生じただけでなく、職を失い食料を買うこともままならない人が多くなったことによる影響も大きいと言われています。また、アフリカでは実に人口の2割が飢餓状態に置かれていると言われています。栄養不足で死に至る人も少なくありませんし、乳幼児の適切な発育に悪影響が及ぶことは想像に難くないと思います。
一方、わが国の食料自給率が低下したというニュースが流れました。カロリーベースで37%と、口にする物の多くを輸入に頼っており、わが国の食料自給率は年々低下しています。特に、私たちが日常的に食べているパンの原料である小麦は15%、そして畜産物(肉や卵など)は16%とその多くを輸入に頼っているのが現状です。加えて、食品ロスの問題も深刻です。わが国では年間で約600万トンが廃棄されていて、これは一人あたり1日お茶碗1杯分に相当します(*2)。飢餓で苦しんでいる人がいる中で、日本人は食べられる大量の食料を捨てているのです。
SDGs2番は「飢餓をゼロに」です。2030年までに世界中の飢餓を解消し、持続可能な農業を促進することが目標とされています。世界中の飢餓を撲滅することにより、栄養不足を改善し、乳幼児の発育を促進することなどに取り組まなければならないのです。
しかしながら、状況は厳しいものがあります。一つは、今後予想される人口増加です。現在約77億人の人口が、2050年には97億人、2100年には109億人に達するという国連の推計があります。これだけ多くの人口を養うだけの食料の生産がこれから先求められるのです。もう一つは、気候変動です。アフリカ諸国や中央アジアでは深刻な干ばつが発生していて、農業生産に莫大なダメージを与えています。これらの国々はまた飢餓に苦しんでいる国々でもあるのです。
このように飢餓の問題はSDGs2番だけにとどまらす、1番「貧困をなくそう」、3番「すべての人に健康と福祉を」、12番「つくる責任つかう責任」、13番「気候変動に具体的な対策を」など、多くのSDGsのゴールにかかわっているのです。つまり、飢餓の問題に対しては総合的な視点からの解決が求められるのです。
それでは、どのような解決策が考えられるでしょうか。その一つに食料の地産地消が挙げられます。地元で生産した食料を地元で消費できれば、食料自給率の改善につながるだけでなく、輸送等にかかるCO2排出も抑えられます。また、農業技術の革新を試み、それらの技術を海外に輸出することも考えられるでしょう。
*1…ユニセフ
https://www.unicef.or.jp/news/2021/0140.html
*1…農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/press/shokusan/kankyoi/attach/pdf/210427-3.pdf
【問いかけ例】
Q.なぜわが国の食料自給率は低いのだろうか?
* 米食からパンやパスタなどの西洋型食生活への変化、日本の農業人口の減少と高齢化による農業生産の縮小、海外の安価な食品が台頭、といったようないくつかの要因が複雑に関係していることを理解させたい。
Q.わが国の食料自給率を向上させるにはどんなことが考えられるか?
* 私たちが個人としてできるだけ地元の食料品を購入すること、食品業界としては、できる限り国内での農業を生産、加工、販売できるように努力すること、政府としては、さまざまな規制を見直し、多くの若者が就農できる状況に変化させることなど、複眼的に考えさせたい。
Q.なぜ途上国で飢餓が発生するのだろうか?
* 一つは農業技術の未発達が挙げられる。資金不足から最新の農機具を使うことができず、近代的な農業ができないことが多いため生産量を大きく拡大することが難しい。もう一つは気候変動の影響を受けやすいことである。アフリカのサヘル地区や中東では、干ばつの被害が大きく、灌漑設備なども不十分なため、大きな損害が出ることが多くなっている。農業・灌漑技術が未発達なうえに、気候変動が頻発することによってさらに打撃を受けているのが現状である。農業と気候変動の関連に興味を持ってほしい。
オリジナル資料
〈資料1〉は、「学習者用解説」と、「生徒への問いかけ例」をまとめたプリントです(A4×2枚)。〈資料2〉は、その月に取り上げるゴールに関連する「入試小論文過去問題」を紹介します。