地理とSDGs<1>(全4回)

 

 

「地理的な見方・考え方」とSDGs

 

広島大学大学院教授 淺野 敏久

 

文理の垣根を越えた総合的な視野を開く「地理」

 

 学習指導要領の改訂で,約半世紀ぶりに地理が必修になる。グローバル化が進み世界の結びつきが深まる時代において,世界各地の産業経済の特徴や多様な生活文化を学ぶことは,誰にでも求められることであろう。また,温暖化が進み,生物多様性が損なわれるなど地球規模の環境悪化が懸念され,地震や火山の噴火,豪雨や台風などによる災害が頻発し,生命や生活の危機が実は身近なところにあると意識されている。現代は,これまで以上に人と自然の関係が問い直される時代ともいえ,やはり,すべての人が一通りは学ぶべき内容であるといえよう。このように考えると地理の必修化はむしろ遅すぎたように思う。

 

 

 進路相談などで大学生と話をする機会があるが,環境問題は理系が勉強・研究することだと思っている学生がとても多い印象を抱いている。しかし,環境問題は社会的な問題であり,その解決を模索する過程では社会のあり方が問われるので,経済や政治,社会,歴史など文系的な視点を抜いては解決にたどり着けない。理系・文系という枠組みにとらわれず,分野の垣根を越えて総合的に現象を捉え,問題の解決を目指さなければならない。これは耳にたこができるほどいわれていることではあるが,実際には必ずしも広く浸透しているわけではない。一部の高校では文理横断的なカリキュラムによる学びが実践されていると承知しているが,大学に進学する前や社会に出る前の高校教育で,このことは指導されていてほしいと切に願う。少なくとも「地球」や「環境」を扱うのは理科であって社会科ではないと認識したまま子どもたちが社会に出ていくのは,日本の将来にとってマイナスではないだろうか。環境問題に限らず,地球規模の問題を理解するためには,理科や社会科の枠を超えて,総合的に地球や世界を捉える視点を育むことが必要である。そして,ここを埋める科目が地理だと考えている。