目標8と関連づけて考えよう!

● ユニクロ綿シャツ 米が輸入差し止め(2021年5月20日の記事より)

 

 

今月のニュース記事

 

● ユニクロ綿シャツ 米が輸入差し止め

 

 ファーストリテイリングが展開する衣料品チェーン大手「ユニクロ」の綿製シャツが、中国・新疆(しんきょう)ウイグル自治区の強制労働をめぐる米政府の輸入禁止措置に違反したとして、米税関・国境警備局(CBP)が今年1月、ロサンゼルス港で輸入を差し止めていたことがわかった。綿シャツの原料に、中国共産党の傘下組織で、綿花の主要生産団体である「新疆生産建設兵団(XPCC)」がかかわった綿が使われている疑いがあるという。米政府はXPCCが生産にかかわる綿製品の輸入を禁止している。ファーストリテイリングは、「強制労働などの問題がないことは確認している」として、CBPの決定は「非常に遺憾」とするコメントを出した。

 

(第一小論net〈ニュースダイジェスト〉2021年5月20日の記事より)

 

 

 

指導のポイント

 

 「今月のニュース記事」と関連のある目標について、指導の前に押さえておいていただきたいポイントを解説しています。まずは、各目標の概要やめざすところをご確認ください。

 

 ビジネスにおいては、これまでの自社利益の拡大と途上国の経済発展とを企図したグローバルな事業展開が、環境破壊、児童労働、行政汚職などを誘発した。経済面の進展のみを志した事業展開によって、社会の負の側面を浮き彫りにする事例が多く発生したのである。中国新疆ウイグル自治区に関して、ユニクロ製品を米国が輸入差し止めした問題や、同地域で生産された綿花を使用しないと表明した世界的なアパレルメーカーに対し、中国国内で不買運動が発生したことなどは、まさにその典型と言える。

 

 昨今はESG投資(*1)の隆盛もあり、企業経営において人権保護が人道的な問題のみならず、自社事業を脅かすリスクを回避する側面からも最優先課題とされるようになってきた。

 

 2011年に「ビジネスと人権に関する指導原則」が国連で決議されことを受け、わが国は2020年に「ビジネスと人権に関する国別行動計画」を制定した。そこには、さまざまな側面での人権保護が示さている。

 

 SDGsゴール8番には、強制労働や児童労働の根絶をはじめ、働きがいのある仕事を行うことなど、労働者の権利を守る必要性がうたわれている。またゴール10番では、あらゆる不平等の撤廃が、ゴール1番では、貧困状態にある人々を救うことが示されている。

 

 企業経営のみならず、社会全体で基本的人権を尊重することに、改めて真摯に向き合っていかなければならない。

 

 *1…企業のEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス=企業統治)への取り組みを評価したうえで行う投資方法。

 


 

 

 

学習者用解説

 

 「今月のニュース記事」を学習者用にかみ砕いて解説しています。

 

 高校生の皆さんの中には、ファッションに興味がある人も多いと思います。最近、ユニクロの製品をアメリカが輸入拒否するという事案が発生しました。これは、同社が強制的に働かされている環境で生産された綿花を使用しているという疑惑が持ち上がったからです。また、その他の世界的なアパレルメーカーがそのような状況で生産された綿花を使用しないと宣言すると、今度は中国国内でそれらのメーカーの不買運動が起こりました。

 

 なぜこのようなことが発生するのでしょうか? ビジネスにおいては利益が優先されがちなので、労働者の賃金をできるだけ安くしたいという思いが働きます。その結果、低賃金での労働、子どもを働かせる、劣悪な環境での仕事を強いるなど、人権を軽視した仕事が提供されることがあります。

 

 しかし、企業も対策に乗り出しています。特に投資家たちは、このような人権を無視した経営を行う企業を支援しないという「ESG投資」を推進するようになってきていて、企業は、働く人の人権を守らないと企業を経営し続けることが難しくなってきているのです。

 

 また、SDGsのゴール8番『働きがいも経済成長も』に、強制労働や児童労働の根絶をはじめ、働きがいのある人間らしい仕事を行うこと、同一労働同一賃金など、労働者の権利を守る必要性が書かれています。またゴール10番「不平等をなくそう」では、あらゆる不平等の撤廃が書かれていて、ゴール1番「貧困をなくそう」では、貧困状態にある人々を救うことが示されています。このように、適切な労働を提供し、誰もが正当に仕事ができるようになることはSDGs達成のためにもとても重要な要素の一つだと言えます。

 

 国連では、1948年に「世界人権宣言」が採択され、すべての人とすべての国が達成すべき基本的人権について宣言がなされました。最近では、2011年に「ビジネスと人権に関する指導原則」が決議され、それを受けて世界各国で人権に関する行動計画を立てることになりました。わが国では2020年に「ビジネスと人権に関する国別行動計画」が制定されました。そこには、適切な労働の提供、障害者雇用、女性活躍の推進、外国人材の雇用などさまざまな側面での労働者の人権を守ることが示されています。

 

 このように、社会全体で人々の人権を守り、さまざまな人が共生できる社会づくりをめざしていかなければならないのです。その一つとして、私たち消費者もどのような環境で生産されたものなのかを考えてから製品を購入するといった意識を持つことも重要になってくるでしょう。

 

 

 

【問いかけ例】

 

Q.エシカル消費とは何だろう?

* 消費者庁によると「消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うこと」とされている。私たち消費者が商品を購入する際にその商品の原料生産、製造、流通、販売などにおいて、適切な環境で行われているのかを考慮することが重要である。新時代の消費行動として、その背景や現状について理解させるとともに、生徒自身の行動化も促したい。

 

Q.人権尊重にはどのような歴史があるだろう?

* 13世紀の「マグナ・カルタ」をはじめとして「権利章典」「フランス革命」「アメリカ独立宣言」など、世界的にはさまざまなシーンで基本的人権がうたわれてきた。それが、国際的な合意として示されたのが、1948年国連の「世界人権宣言」である。このように、人権が国際的な合意に至るプロセスをはじめ、現代の人権意識の高まりの背景などについても確認したい。

 

Q.人権が尊重されていない労働とはどのようなもので、なぜ行われるのだろう?

* 低賃金、児童労働、劣悪な環境での労働、危険な環境での労働をはじめ、傷病が発生した際の補償がない、簡単な解雇、ハラスメントなど、多くは雇用者側の環境、制度設計に由来すると言えるだろう。なぜ、このような状況が発生するのか、資本主義のあり方、会社経営の仕組み、世界的なサプライチェーン化などの側面から考えたい。

 

 

 

オリジナル資料

 

 〈資料1〉は、「学習者用解説」と、「生徒への問いかけ例」をまとめたプリントです(A4×2枚)。〈資料2〉は、その月に取り上げるゴールに関連する「入試小論文過去問題」を紹介します。