目標10と関連づけて考えよう!

● 香港の民主活動家周庭氏「香港には戻らない」(2023年12月5日の記事より)

 

 

 

今月のニュース記事

 

● 香港の民主活動家周庭氏「香港には戻らない」

 

 香港当局による摘発を恐れて沈黙を続けていた香港の民主活動家、周庭(しゅう・てい)氏が、9月からカナダに留学で滞在していることをSNSで明らかにした。周氏はこれまで、香港を「我が家」と呼んできたが、インスタグラムに「おそらく一生、香港に戻ることはない」と投稿した。周氏は、2014年の民主化デモ「雨傘運動」や19年の大規模市民デモで活動し、「民主の女神」とも呼ばれた。しかし、未許可デモを組織するなどした容疑で逮捕。21年6月に刑期を終えて釈放され、インスタグラムに全面黒一色のページを投稿した後は沈黙を続けていた。投稿によると、今年7月、中国本土を訪問することを条件に、旅券が返還され、留学が許された。しかし、留学後も当局に出頭する必要があり、事情聴取やカナダに戻れなくなるおそれがあったため、安全面を考慮して香港に戻るのを諦めたという。

 

(ニュースダイジェスト 2023年12月5日より)

 

 

 

指導のポイント

 

 「今月のニュース記事」と関連のある目標について、指導の前に押さえておいていただきたいポイントを解説しています。まずは、各目標の概要やめざすところをご確認ください。

 

 SDGs10番「人や国の不平等をなくそう」では、人間の基本的権利の保障、とりわけ経済的、政治的側面の不平等の解消について述べられている。人権を保障する歴史は、17世紀英国「権利の章典」、18世紀フランス革命「人権宣言」など古くからその取り組みが進められてきた。そして、二度の世界大戦の反省をふまえ、1948年12月の国連総会にて「世界人権宣言」が採択され、すべての人間と国家が果たすべき役割の基準が示された。

 

 しかし、現代社会においてはさまざまな人権侵害が行われており、すべての人々が平等の権利を有している社会とは言い難い状況である。ミャンマーでは軍事政権により民族の迫害が行われ、アフガニスタンなどのイスラム諸国では女性の権利が奪われているという。そして新聞記事にあるように、中国でも香港やウイグル自治区で同様な事態が発生しているといわれている。さらには、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエル・パレスチナ情勢においても、人種や民族間の偏見が衝突の要因の一つだと言われている。また、ブラック・ライヴズ・マター運動のように黒人への差別偏見も根強く残っていると言わざるを得ない。

 

 この地球上から不平等が解消し、すべての人の人権が守られる世界を構築していくために、自国のみならず国際社会の協力が求められている。

 

 


 

 

学習者用解説

 

 「今月のニュース記事」を学習者用にかみ砕いて解説しています。

 

 周庭氏は、自身が大学1年生だった2014年に「雨傘運動」という香港の民主化運動に中心的なメンバーとして参加したことで一躍その名前が知られるようになりました。独学で学んだという日本語も堪能なので、メディアでその姿を見た人も多いことでしょう。この運動は、中国政府が香港の行政長官選挙を改革し、実質的に中国に親和的な候補者しか立候補できないようにしたことに不満を感じた香港市民が雨傘を持ってデモを行い、抵抗を示したものです(*1)。

 

 SDGs10番「人や国の不平等をなくそう」には、人間の基本的権利の保障が書かれています。ターゲット10.1には所得の不平等の改善、10.2にはすべての人が社会的、経済的、政治的な権利を有すること、10.3には差別の解消、10.7には適切な移民政策や移住などが示されていて、「誰一人取り残さない」というSDGsのスローガンを直接的に表現していると言えます。

 

 ところが、いまの社会では不平等が解消されたということが決してできません。アフガニスタンのタリバン政権では、女性の権利が認められる範囲が非常に狭くなっています。その他のイスラム教を主とする国家でも、宗教的な理由から同様の状況になっていると言われています。ミャンマーの軍事政権は、市民や少数民族への人権侵害を行っていると言われています。そして、いま世界を揺るがしている、ロシア‐ウクライナ紛争、イスラエル‐パレスチナ紛争、いずれも人種や民族間での偏見や差別意識がその原因の一つになっていると言われています。さらに、アメリカに端を発した「ブラック・ライヴズ・マター運動」は、警察官による黒人への人種差別的な対応をきっかけにして起こり、世界中に拡大しています。

 

 また、差別や不平等は私たちの国、社会でも存在することを忘れてはいけません。アイヌ民族問題、同和問題といった民族や出自に関する差別にとどまらず、企業内では女性の活躍が限定される環境が残っていると言わざるを得ませんし、高齢者や障がい者、外国人が社会的な差別を受けるなど、決して他人事ではないのです。

 

 人権問題に対して国連は積極的に取り組んできました。戦後すぐに採択された「国連憲章」「世界人権宣言」で人々の権利保障をその基本理念に据え、その後も世界各地で紛争などにより生じた人権問題に対して「人権理事会」を中心に取り組んできました。日本政府も人権理事会の理事国を務めたり、世界的な人道支援などを積極的に実施したりしています。

 

 この地球上から不平等がなくなり、すべての人の人権が守られる世界を作りあげていくために、自国のみならず国際社会の協力が求められています。

 

*1…2024年2月6日、香港警察は保釈条件である出頭期日までに香港に戻らなかったとして、カナダに滞在している民主活動家の周庭氏を指名手配したと発表した。

 

 

【問いかけ例】

 

Q.人権を重視する社会と軽視する社会では、どのような点が異なるだろうか?
* 住む場所を奪われる、適切な教育や医療を受けることができない、移動が制限されるといった基本的生存権にかかわるような点における格差が生じるだけでなく、就くことができる職業や地位が限られる、収入の格差、政治参加が制限されるといった、社会的権利の制限といった問題もある。政治、経済、社会、人道など、多角的な視点を持ちたい。

 

Q.黒人差別問題はなぜ発生し現在でも問題となっているのだろうか?
* 近世に始まった奴隷貿易は資本主義構築に大きく寄与したとされ、黒人差別の温床になってきたと言われている。戦後は国連での世界人権宣言、アメリカでの公民権法制定といった解消に向けた努力が続けられているものの、差別意識は人々の意識だけでなく、政治や経済の仕組みの中に「バイアス」として根強く残っていると言わざるを得ないだろう。

 

Q.企業経営における人権問題にはどのようなものがあり、どのように解消しようとされているだろうか?
* 雇用、給与、昇進、労働環境といった企業経営のあらゆる側面に人権問題が発生する可能性があると言える。国連は「ビジネスと人権に関する指導原則」を示し、それを受けて各国は「ビジネスと人権に関する国別行動計画」を策定している。EUでは「人権デュー・ディリジェンス」が義務化されるなど、企業等において人権を保障した労働環境を作りあげることが世界中で求められている。しかし、差別や不平等が発生しやすいことを念頭に置き、実態との差を発見することにも重点を置きたい。

 

 

オリジナル資料

 

 〈資料1〉は、「学習者用解説」と、「生徒への問いかけ例」をまとめたプリントです(A4×2枚)。〈資料2〉は、その月に取り上げるゴールに関連する「入試小論文過去問題」を紹介します。