目標10と関連づけて考えよう!

● ミャンマー代表選手 難民申請(2021年6月23日の記事より)

 

 

今月のニュース記事

 

● ミャンマー代表選手 難民申請

 

 サッカーのミャンマー代表選手としてワールドカップ(W杯)アジア2次予選で来日し、関西空港で帰国を拒否したピエリアンアウンさんが、大阪出入国在留管理局を訪れて難民認定を申請した。ピエリアンアウンさんは、5月28日の対日本戦で、クーデターを起こした国軍への抵抗を示す「3本指」を掲げた。支援する弁護士によると、「帰国すると迫害を受ける可能性が高い」と訴える書面を同局に提出したという。同局は迅速な対応を約束したというが、審査に時間を要するため、現在の短期滞在ビザから、就労もできる6か月の特定活動ビザへの変更もあわせて申請された。ピエリアンアウンさんは、デモに参加したサッカー仲間が銃撃で命を落としたり、拘束されたりしていることも明かした。。

 

(第一小論net〈ニュースダイジェスト〉2021年6月23日の記事より)

 

 

 

指導のポイント

 

 「今月のニュース記事」と関連のある目標について、指導の前に押さえておいていただきたいポイントを解説しています。まずは、各目標の概要やめざすところをご確認ください。

 

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2020年末時点の難民は世界全体で8,240万人である(*1)。絶えることのない紛争や迫害に加えて、新型コロナウィルス蔓延により難民数が増加傾向にある。難民問題は、そのような状況に置かれた人々に対する人道的な問題をはじめ、発生する国の内政問題、難民キャンプの劣悪な環境、難民の受け入れをどうするかといった幅広い問題が複雑に絡んでいる国際的な関心事である。

 

 ミャンマーでは、今年2月に発生した軍事クーデターが混乱を引き起こし、社会・経済が不安定な状態に置かれている。このような状況下でサッカーミャンマー代表選手が試合前、軍への抗議の意思を示す3本の指を立てるポーズをとった。その後、わが国に難民申請を行い、国が新たに設けた特別措置により、働きながら難民認定の決定を待つが、わが国の難民受け入れ申請は、膨大な時間と労力を要すうえに難民認定率が著しく低いことが問題視されている。

 

 SDGs10番「人や国の不平等をなくそう」には、すべての人々の社会的、経済的、政治的包含や、統制のとれた秩序ある移住や人々の移動についてが、ターゲットとして設定されている。難民問題の解決に向けて、人の生命や人権を守っていくことはもちろん、国内、国際間の政治、社会、経済の安定化を図ることが必要不可欠である。

 

 *1…UNHCR日本
https://www.unhcr.org/jp/global_trends_2020

 


 

 

 

学習者用解説

 

 「今月のニュース記事」を学習者用にかみ砕いて解説しています。

 

 第2次世界大戦の難民救済のために1950年に設立された国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、世界の難民問題に対処しています。UNHCRの調査によると、2020年末の世界の難民は8,240万人です(*1)。難民とは、紛争や迫害、人権侵害等、公共の秩序を著しく乱すことが発生して、強制的に移動を余儀なくされた人々のことで、劣悪な環境の難民キャンプでの生活を強いられ、危険を冒して国外に脱出する難民も後を絶ちません。アフリカや中東からヨーロッパに向かった難民船が難破して多くの人が亡くなるという事件を見聞きしたことがある人も多いでしょう。統計によると、シリアやベネズエラ、アフガニスタンなどで多くの難民が発生しています。

 

 ミャンマーでは、今年2月に軍がクーデターを起こし政権を奪う事件が発生しました。以降多くの市民が反対運動を展開し国内で紛争が勃発しました。それにより、多くの国民の生活が不安定な状況に置かれています。このような状況の中で、サッカーミャンマー代表選手が試合のために来日したタイミングで軍に抗議の意思を示し、その後難民申請を行ったのです。

 

 他方、難民を受け入れるかどうかも国際的な問題となっています。難民が発生している隣国で受け入れるケースが多いようですが、トルコやドイツなども多くの難民を受け入れています。わが国では難民申請がなされても、手続きに非常に時間がかかり、認定される割合が著しく低いことが指摘されていて、生活もままならない人が数多く存在することが問題となっています。

 

 SDGs10番は「人や国の不平等をなくそう」です。ターゲット10.2では、その人が置かれている状況にかかわりなく、すべての人が人間らしい生活をすることが示されています。また、10.7では、安全で秩序ある人の移住や流動性を確保することが示されています。

 

 難民問題はさまざまなSDGsにかかわっています。難民となった子どもたちが適切な教育を受ける機会が著しく限定されるということはSDGs4番「質の高い教育をみんなに」に関係します。また、多くの難民は働く場を奪われます。そうするとSDGs1番「貧困をなくそう」や8番「働きがいも経済成長も」に関係してきます。難民は適切な医療が受けられないことも多く、SDGs3番「すべての人に健康と福祉を」に関係してきます。ほかにも多くのSDGs番号と関係していることに気づかされると思います。その中でもSDGs16番「平和と公正をすべての人に」に示されている、暴力や紛争、搾取、汚職などをなくしていくことが、この問題を解決する鍵になるかもしれません。

 

 *1…UNHCR日本
https://www.unhcr.org/jp/global_trends_2020

 

 

 

【問いかけ例】

 

Q.難民の生活環境を改善するためにどのような取り組みが行われているだろうか?

* 国連やUNHCR等の国際機関の食料援助等の取り組みや、「国境なき医師団」などの非政府組織による医療支援、企業や我々個人の寄付など、多様な関係者がさまざまな取り組みを行っていることを確認したい。しかし、対症療法的な活動が多いことにも注意が必要だろう。

 

Q.紛争が発生する原因としてはどんなことがあるだろうか?

* 政治、宗教、人種、民族、経済格差など、さまざまな原因が考えられ、かつ歴史的な背景も含めて複雑に絡み合っていることを理解したい。このような状況を解決するためには、対処的な取り組みではなく、根本解決できるように「本当の問題は何か」を見つけることが必要だろう。

 

Q.わが国で難民を受け入れることのメリット・デメリットはどんなことが考えられるか?

* メリットとしては、福祉やサービス業など人手が不足している産業への人材供給の側面が考えられる。デメリットとしては、犯罪や事件の温床になりかねないことや、差別が発生することなどが考えられる。多面的な視点から考えたい。

 

 

 

オリジナル資料

 

 〈資料1〉は、「学習者用解説」と、「生徒への問いかけ例」をまとめたプリントです(A4×2枚)。〈資料2〉は、その月に取り上げるゴールに関連する「入試小論文過去問題」を紹介します。