● 富士山 予約システム導入(2024年5月14日の記事より)
学習者用解説
「今月のニュース記事」を学習者用にかみ砕いて解説しています。
みなさんは「オーバーツーリズム」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。観光地の受け入れ能力を超えた観光客が来てしまうことで、さまざまな問題が発生することを言います。新聞記事にもあるように、富士山では、外国人を含めた多くの登山者が登山可能な短期間に押し寄せていたため、混雑による滑落や、登山に不慣れな人の健康被害、ゴミの散乱などが問題となりました。また、コンビニエンスストア越しに見える富士山が、外国人にとって格好の撮影スポットになり、多くの人が押し寄せてしまったニュースを見た人も多いことでしょう。オーバーツーリズムは、東京や京都、富士山といった多くの観光客が訪れる場所で特に顕著ですが、特定のイベントや季節によっては、通常は観光客が少ない地域でも見られるのです。
政府は観光施策を総合的かつ計画的に推進するために「観光立国推進基本法」を2006年に制定し、観光が国の重要政策と位置づけられました。その後、2008年に「観光庁」が発足しました。そして、2012年には1,000万人に満たなかった訪日観光客数を、2030年に6,000万人とする目標が設定されました。その後新型コロナのパンデミックがあったものの、2023年は2,500万人と、円安も追い風となり急速にその増加トレンドを回復しつつあります。
また、2023年には「観光立国推進基本計画(第4次)」が閣議決定され、訪日観光客の回復を推進しています。その中で「持続可能な観光」が柱の一つとなっていて、「訪問客、産業、環境、受け入れ地域の需要に適合しつつ、現在と未来の環境、社会文化、経済への影響に十分配慮した観光」がめざされています。
SDGsの視点から観光を考えてみると、ほとんどすべてのゴールと関係があります。国連世界観光機関(UNWTO)が64か国のSDGsに関する自発的国別レビュー(*)を分析したところ、41か国が観光と何らかの目標との接点に言及していて、特にSDGs8番、12番、17番に強いつながりが見られました。SDGs8番では、観光業で働く人々の労働環境・条件等の整備、SDGs12番では、水、ゴミ、生物多様性、といった観光保全とエネルギー消費の問題、SDGs17番では、官民連携や多様な利害関係者と良好な関係を構築すること、などがそれぞれ主な課題とされています。
わが国では、パンデミック後の国内外からの観光客増加に直面しています。無責任な消費活動や自然破壊など、観光はさまざまなリスクが潜んでいます。経済的な利便性を追求する半面、環境や社会をないがしろにしては意味がありません。それぞれを両立させていくことが持続可能な観光と言えるのです。
*…「自発的国別レビュー」 Voluntary National Review(VNR)といい、SDGsの進捗について各国連加盟国が、定めた目標に対してどの程度進捗しているのかを自発的に調査、報告すること。