目標8・12・17と関連づけて考えよう!

● 富士山 予約システム導入(2024年5月14日の記事より)

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今月のニュース記事

 

● 富士山 予約システム導入

 

 山梨県は、富士山の「吉田口登山道」で利用規制が導入されるのに合わせ、富士登山を事前に予約できるシステムを導入する。山頂付近などの混雑を防ぐため、同登山道の利用者は1日4,000人までとなるが、予約によって登山計画が立てやすくなる。富士山の登山者数は昨季(7~9月)、約22万人に上った。シーズン中の富士山では、山頂でご来光を見ようとする登山者が長蛇の列をつくり、無理な追い越しなども発生している。山小屋に泊まらず、夜通し山頂をめざす「弾丸登山」を強行する人もいて、低体温症や高山病のリスクが高まると問題視されている。一方、静岡県は登山者数の制限はせず、弾丸登山対策として、山小屋の宿泊予約の有無や登山計画を事前登録できるウェブサイトを開設し、注意喚起する。宿泊予約がない場合は登山自粛を求めるという。

 

(ニュースダイジェスト 2024年5月14日より)

 

 

 

指導のポイント

 

 「今月のニュース記事」と関連のある目標について、指導の前に押さえておいていただきたいポイントを解説しています。まずは、各目標の概要やめざすところをご確認ください。

 

 観光地の受け入れ能力を超えた観光客が来訪する「オーバーツーリズム」が大きな問題となっている。

 

 日本政府は、2012年に、当時1,000万人に満たなかった訪日観光客数を2030年に6,000万人とする目標を設定した。このインバウンドは、新型コロナのパンデミックの発生で一時は落ち込んだものの、2023年は2,500万人と、円安も追い風となり急速にその増加トレンドを回復しつつある。また、2023年に「観光立国推進基本計画(第4次)」が閣議決定され、インバウンドの回復をさまざまな指標を設定して推進している。その中でも「持続可能な観光」を柱の一つとして「訪問客、産業、環境、受け入れ地域の需要に適合しつつ、現在と未来の環境、社会文化、経済への影響に十分配慮した観光」をめざしている。

 

 ただし、新聞記事にもあるように、富士山登山では、外国人を含めた多くの登山者が短い期間に押し寄せたため、混雑による滑落、不慣れな登山者の健康被害、ゴミの散乱などさまざまな問題が表面化している。インバウンド観光の増加は経済的な利益をもたらす一方で、オーバーツーリズムの問題を引き起こす可能性がある。

 

 観光はSDGsとの関係が深い。国連世界観光機関(UNWTO)が64か国のSDGsに関する自発的国別レビュー(*)を分析したところ、41か国が観光と何らかの目標との接点に言及しており、特にSDGs8番、12番、17番に観光との強いつながりが見られた。

 


 無責任な消費活動や自然破壊など、観光が内包するリスクを十分に理解しながら、その対策に努めていく必要があるだろう。


*…「自発的国別レビュー」  Voluntary National Review(VNR)といい、SDGsの進捗について各国連加盟国が、定めた目標に対してどの程度進捗しているのかを自発的に調査、報告すること。

 

 

 

 

学習者用解説

 

 「今月のニュース記事」を学習者用にかみ砕いて解説しています。

 

 みなさんは「オーバーツーリズム」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。観光地の受け入れ能力を超えた観光客が来てしまうことで、さまざまな問題が発生することを言います。新聞記事にもあるように、富士山では、外国人を含めた多くの登山者が登山可能な短期間に押し寄せていたため、混雑による滑落や、登山に不慣れな人の健康被害、ゴミの散乱などが問題となりました。また、コンビニエンスストア越しに見える富士山が、外国人にとって格好の撮影スポットになり、多くの人が押し寄せてしまったニュースを見た人も多いことでしょう。オーバーツーリズムは、東京や京都、富士山といった多くの観光客が訪れる場所で特に顕著ですが、特定のイベントや季節によっては、通常は観光客が少ない地域でも見られるのです。

 


 政府は観光施策を総合的かつ計画的に推進するために「観光立国推進基本法」を2006年に制定し、観光が国の重要政策と位置づけられました。その後、2008年に「観光庁」が発足しました。そして、2012年には1,000万人に満たなかった訪日観光客数を、2030年に6,000万人とする目標が設定されました。その後新型コロナのパンデミックがあったものの、2023年は2,500万人と、円安も追い風となり急速にその増加トレンドを回復しつつあります。

 

 また、2023年には「観光立国推進基本計画(第4次)」が閣議決定され、訪日観光客の回復を推進しています。その中で「持続可能な観光」が柱の一つとなっていて、「訪問客、産業、環境、受け入れ地域の需要に適合しつつ、現在と未来の環境、社会文化、経済への影響に十分配慮した観光」がめざされています。

 

 SDGsの視点から観光を考えてみると、ほとんどすべてのゴールと関係があります。国連世界観光機関(UNWTO)が64か国のSDGsに関する自発的国別レビュー(*)を分析したところ、41か国が観光と何らかの目標との接点に言及していて、特にSDGs8番、12番、17番に強いつながりが見られました。SDGs8番では、観光業で働く人々の労働環境・条件等の整備、SDGs12番では、水、ゴミ、生物多様性、といった観光保全とエネルギー消費の問題、SDGs17番では、官民連携や多様な利害関係者と良好な関係を構築すること、などがそれぞれ主な課題とされています。

 

 わが国では、パンデミック後の国内外からの観光客増加に直面しています。無責任な消費活動や自然破壊など、観光はさまざまなリスクが潜んでいます。経済的な利便性を追求する半面、環境や社会をないがしろにしては意味がありません。それぞれを両立させていくことが持続可能な観光と言えるのです。

 

*…「自発的国別レビュー」  Voluntary National Review(VNR)といい、SDGsの進捗について各国連加盟国が、定めた目標に対してどの程度進捗しているのかを自発的に調査、報告すること。

 

 

 

【問いかけ例】

 

Q.オーバーツーリズムの被害には具体的にどのようなものがあるだろうか?
* 多くの人が訪れることでどうしてもゴミが散乱しがちである。話し声は普段静穏な地域には騒音となることもある。「映える」写真を撮影するために無断で住居などの私有地に侵入することも発生している。路上で飲酒や喫煙を行ってしまうなどのマナー違反も多発している。多くの来訪者が訪れることで、一時的な経済的潤いを享受できたとしても、中長期的には環境悪化を招き来訪者が減少することになってしまう。観光地であっても、そこで日常生活を送る人々がいることを忘れてはならない。生徒には中長期的な視点を持つことの重要性を伝えたい。

 


Q.訪日外国人を増加させるにはどうしたらよいだろうか?
* 欧米の富裕層を中心に観光に対する嗜好が変化していると言われている。比較的長期間にわたって滞在し、現地の生活や文化、自然に触れるような体験を重視する傾向が強まっていることが指摘されている。一方で、地域に暮らす人々は、自分たちの地域に魅力があるのかどうか懐疑的に感じていることも多いと言われている。観光客のニーズの変化を捉えることや、元々現地にある生活、文化、自然などの地域の観光資源を見直す視点を持たせたい。

 

Q.オーバーツーリズムの対策としてどのようなものが考えられるだろうか?
* 新聞記事にあるように、観光地に入場制限を設けたり、イタリア・ベネチアなどのような入島税を導入したりするなど、わが国のみならず世界的に対策が進みつつある。また、日本人観光客は、ゴールデンウィークやお盆などの期間に集中してしまいがちなため、スケジュールの影響が比較的小さいインバウンドを効果的に受け入れることで、オーバーツーリズムの緩和に貢献するのではないかと言われている。観光庁が進める「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を参照しつつ、地域の現状に即した対策を考えさせたい。

 

 

オリジナル資料

 

 〈資料1〉は、「学習者用解説」と、「生徒への問いかけ例」をまとめたプリントです(A4×2枚)。〈資料2〉は、その月に取り上げるゴールに関連する「入試小論文過去問題」を紹介します。