目標16と関連づけて考えよう!

● 大統領選挙の投稿 根拠不明でも大量拡散(2021年1月24日の記事より)

 

 

今月のニュース記事

 

●大統領選挙の投稿 根拠不明でも大量拡散

 

 米大統領選に関して、昨年日本で大量に拡散されたツイッターの投稿を読売新聞が分析したところ、アメリカ発の根拠不明の情報などに基づいて「選挙は不正」とした投稿が、全体の7割を占めていたことがわかった。勝敗にかかわる不正はないと確認された後も同様の投稿は続き、誤った情報が広がるSNSの危険性が浮き彫りとなった。不正情報を発信していたアカウントの多くは身元不明の個人や情報サイトだった。2016年の大統領選でも、米国で偽ニュースが問題になったが、日本での拡散はほとんどなかった。今回は、トランプ氏が敗北を認めなかったことやコロナ禍での不満などを背景に、陰謀論などにひかれやすい状況だったことも影響した可能性があるという。

 

(第一小論net〈ニュースダイジェスト〉2021年1月24日の記事より)

 

 

指導のポイント

 

 「今月のニュース記事」と関連のある目標について、指導の前に押さえておいていただきたいポイントを解説しています。まずは、各目標の概要やめざすところをご確認ください。

 

 先に行われたアメリカ大統領選挙に見たように、インターネットが基本的インフラとなった現在、選挙はさながら情報戦の様相を呈している。

 

 情報化社会は情報発信の自由と情報技術の進化が複雑に絡み合い、事実とは何かの見極めを難しくしている。また、SNSには「レコメンド機能」が備わっていることがある。閲覧や発信の傾向からユーザーが興味関心を持っていると思われる情報を選別し、優先的に表示されるようなアルゴリズムが働いているのである。このことは、あたかも自分が頻繁に目にする情報が「正しい」と信じてしまうことにつながりかねない。

 

 SDGsが述べられている「2030アジェンダ」のパラグラフ19では、世界人権宣言や国連憲章の下にすべての人の人権、及び基本的な自由の尊重と保護がなされなければならないとされている。そして、SDGsターゲット16.10は「国内法規及び国際協定に従い、情報への公共アクセスを確保し、基本的自由を保障する」であり、すべてのターゲットにも通じる普遍的な内容となっている。

 

 「アラブの春」「国家の情報統制」「ヘイトスピーチ」「気候変動デモ」など、情報が大きく世の中を動かす時代に、私たちには何を信じていいのかを選別する良心と見識、倫理観がよりいっそう求められるのである。

 

 このように、直接SDGsと関連がなさそうに見えるものでも、SDGsの目的の一つである「不平等の是正」は重要な観点である。世界中が注目したこのニュースを機に、改めて基本的人権の重要性を考えさせてほしい。

 

 

 

学習者用解説

 

 「今月のニュース記事」を学習者用にかみ砕いて解説しています。

 

 高校生の皆さんが普段何気なく目にするインターネット上の情報はすべて「正しい」ものでしょうか? 人は普段よく目にする情報をいったん受け入れると、その考えに沿った情報がより頻繁に入ってくるようになり、それらを「正しい」と信じてしまう傾向があります。これを「確証バイアス」と言います。先のアメリカ大統領選挙では、根拠不明の情報に基づいた「選挙不正」の投稿が非常に多かったことが新聞記事で取り上げられています。SNSでは「リツイート」や「ハッシュタグ」などで、真偽不明であっても情報が一気に拡散してしまいます。そして、多くの人がその情報を信じてしまうのです。

 

 人は生まれながらにして基本的自由を有しています。1948年に国連で採択された「世界人権宣言」では、人間には思想、意見及び表現の自由が保障されているとしています。また、国連の基本文書である「国際連合憲章」においても、人々の基本的人権と自由の実現が示されていて、現代を生きる私たちは当たり前のように情報を自由に見たり発信したりすることができるのです。

 

 情報は私たち人間を動かす大きな力を持っています。アラブ諸国が民主化を成し遂げた「アラブの春」や、欧米を中心に気候変動に対するデモが拡大したのは、インターネットを通じて若者たちに情報が広く拡散したことが影響していると言われています。しかし一方で、国家統制によって情報に自由にアクセスできない人も存在しています。

 

 SDGsターゲット16.10は「情報への公共アクセスを確保し、基本的自由を保障する」となっていて、すべての人が情報に対する自由を持たなければなりません。また、情報の自由はゴール9「産業と技術革新の基盤をつくろう」やゴール10「人や国の不平等をなくそう」にも深くかかわっています。ターゲット9.cでは、開発途上国における情報通信環境の改善、ターゲット10.3では差別の撤廃や人々の機会均等が示されています。

 

 ゴール16のキャッチフレーズは「平和と公正をすべての人に」です。ここには情報に関する自由以外にも、暴力や搾取をなくす、テロリズムや犯罪の根絶、武器取引の大幅削減、汚職や贈賄の減少、司法への平等なアクセスなどが目標として掲げられています。このように、SDGsと直接関係がなさそうに見える社会課題や事件でも、SDGsの達成のためには不平等を解消し基本的人権を尊重することがとても重要です。そのためには、テクノロジーの進化だけでなく、世界的に注目されるニュースなどに対して倫理観や情報を見極める目を持つことがより一層求められるでしょう。世界中から不正や暴力などをなくし、平和で誰もが自由に生きられる社会を創っていかなければならないのです。

 

 

【問いかけ例】

 

Q.人々に提供される情報に偏りができるとどんなことが起きるだろうか?

* 何が正しいのかがわかりにくくなり、限られた情報の中で判断しなければならなくなることや、ある情報を信じる人と信じない人にはっきりと分化される傾向が強くなることが挙げられる。生徒が自分自身の情報の捉え方を見直すきっかけにもしてほしい。

 

Q.情報通信技術は今後どのように進化していくだろうか?

* 5G、6Gなどの開発で瞬時に大量の情報を送受信することができるようになり、医療、生産、教育などさまざまな産業発展に大きく寄与する。そうすることで、人やモノと情報がつながる世界がより促進されることに気づいてほしい。

 

Q.国家が国民に情報を制限する理由としてどんなことが考えられるだろうか?

* 国家として都合のよい情報のみを伝え安心させることで国民をコントロールし、国家を転覆させるような動きがでないようにするといったことが一般的な回答だろう。政治体制との関係性も含めて現代でもこのような問題が存在している国があることに気づかせたい。

 

 

オリジナル資料

 

 〈資料1〉は、「学習者用解説」と、「生徒への問いかけ例」をまとめたプリントです(A4×2枚)。〈資料2〉は、その月に取り上げるゴールに関連する「入試小論文過去問題」を紹介します。