● 交通事故死者数 最少2,636人(2022年1月5日の記事より)
今月のニュース記事
● 交通事故死者数 最少2,636人
昨年の全国の交通事故死者数は2,636人で、前年の2,839人から203人(7%)減少したと警察庁が発表した。統計が残る1948年以降で最少を更新した。初めて3,000人を割った2020年に続き、新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛が影響した可能性があるという。警察庁によると、全国の交通事故の発生件数は30万5,425件で、前年より3,753件減少し、負傷者も7,708人減り、36万1,768人だった。65歳以上の高齢者の死者数(速報値)は1,520人で、全体の57.7%(前年比1.5ポイント増)を占めた。都道府県別では、神奈川県が142人で、初めてワースト1位となり、次いで大阪府(140人)、東京都(133人)。交通事故死者数は、近年減少傾向が続いている。車の機能の高度化や救急医療体制の充実、ドライバーの安全意識の向上などがその要因と見られる。
(第一小論net〈ニュースダイジェスト〉2022年1月5日の記事より)
指導のポイント
「今月のニュース記事」と関連のある目標について、指導の前に押さえておいていただきたいポイントを解説しています。まずは、各目標の概要やめざすところをご確認ください。
昨年度の交通事故による死亡者数が、統計が残る1948年以降最少を更新したことが警察庁の統計から明らかになった。その要因として警察庁は、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言などによって人々の外出機会が減少したことが可能性として挙げている。また、車の機能の高度化、緊急医療体制の充実、ドライバーの安全意識の向上などが指摘されているが、それに加えて、道路や信号などの交通インフラの充実も貢献していると考えられる。SDGsターゲット3.6には「2020年までに、世界の道路交通事故による死傷者を半減させる」が設定されている。169のターゲットの中では数少ない2020年が期限となっているものである。わが国においては、2015年の交通事故死5,039人に対して、2019年は3,819人(約24%減)であり、2021年に2,636人にまで減少したことはさらに大きくこのゴールに貢献している。しかし、国連のSDGs報告書によると、世界的には2010年から2019年の10年間で8.3%の減少に留まっている(*1)。
車の機能の高度化については、自動ブレーキにとどまらず、位置情報技術やAIの発達による自動運転システムの開発が進められている。これらはSDGs9番「産業と技術革新の基盤をつくろう」に含まれる。また、道路や信号をはじめとした交通インフラの充実は、SDGs11番「住み続けられるまちづくりを」に関係しており、また、ドライバーの安全意識の向上は、SDGs4番「質の高い教育をみんなに」に関係する。救急医療体制の充実もSDGs3番「すべての人に健康と福祉を」に関係する。
*1…「The Sustainable Development Goals Report 2021」
https://unstats.un.org/sdgs/report/2021/
学習者用解説
「今月のニュース記事」を学習者用にかみ砕いて解説しています。
SDGs3番「すべての人に健康と福祉を」の中に、交通事故死を減らすターゲットが設定されています。ターゲット3.6は「2020年までに、世界の道路交通事故による死傷者を半減させる」で、2020年が目標年です。新聞記事によると、2021年の交通事故死者数が2,636人と過去最低を更新したとされています。実際に、わが国の2015年の交通事故死者数は5,039人であったことから、2021年の結果はこのターゲットに大きく貢献していると言えます。
この新聞記事では、その要因として新型コロナウイルスによる外出制限が影響したのではないかとされています。確かに、2021年は緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が実施されたため、在宅勤務者が増えたり、外出を控える人が多くいたりしたことは記憶に新しいことでしょう。しかし、記事では車の性能の高度化、ドライバーの安全意識の向上、救急医療体制の充実なども要因として考えられることに触れています。
これらの要因もさまざまなSDGsにかかわっています。自動ブレーキシステムなどの車の性能の高度化については、SDGs9番「産業と技術革新の基盤をつくろう」に関係します。もちろん、現在世界中で開発が進められている自動運転技術も含まれるでしょう。また、緊急医療体制の充実はSDGs3番の別のターゲットにかかわってきます。加えて、ドライバーの安全意識の向上は、SDGs4番「質の高い教育をみんなに」に関係しています。そのほかにも、交通事故死者数減少の要因として、信号や道路といった交通インフラの充実も考えられます。これはSDGs11番「住み続けられるまちづくりを」に関係してきます。このように、交通事故死者数の減少はさまざまなSDGsに関係してくるのです。
一方で、世界的にみるとこのターゲットの達成は非常に難しい状況です。国連の統計によると、世界の交通事故死者数は2010年から2019年の10年間で8.3%の減少に留まっています。現在でも人口10万人あたり16.7人が交通事故で死亡している現状があり、決して少ない人数ではありません。わが国をはじめとした先進諸国では、技術的な進歩やインフラの充実により、交通事故死者数は減少している国もありますが、交通インフラが整っていない国や地域では、まだまだこのターゲットの達成には程遠い状況があります。
この課題を解決するためには、世界的なネットワークを構築し、先進国で培った技術やインフラなどを、これから整備が進む途上国に効率的に提供する取り組みが重要となってくることは言うまでもありません。
【問いかけ例】
Q.世界全体で交通事故による死傷者を減らすにはどうすればよいだろうか?
* 途上国においては、経済発展や人口増加により、多くの人が自動車を所有するようになると考えられる。一方で、特に都市部においては、道路や信号などの交通インフラの整備がそれに追いつかないおそれがある。先進国における技術やシステムをどのようにすればスムーズに途上国に実装できるのかを考えさせたい。
Q.高齢者ドライバーによる事故を減らすにはどうすればよいだろうか?
* 昨今高齢者による自動車事故が報道されることが多くなっている。高齢者に免許返納を促す取り組みが進められている一方、自動車が生活の足として不可欠な人も多いのが現状である。技術的な解決の可能性も含めて、幅広く考えてほしい。
Q.未来に向けて交通システムはどのように発展していくだろうか?
* 自動運転技術の進展は交通システムを劇的に変化させる可能性を秘めている。また、開業に向けて準備が始まっているリニアモーターカー等の高速鉄道網の発達、バイオ燃料等大きな技術革新が不可欠な航空・船舶等、さまざまなモビリティ(移動手段)の未来像について考えをめぐらせたい。
オリジナル資料
〈資料1〉は、「学習者用解説」と、「生徒への問いかけ例」をまとめたプリントです(A4×2枚)。〈資料2〉は、その月に取り上げるゴールに関連する「入試小論文過去問題」を紹介します。