目標7と関連づけて考えよう!

● 脱炭素 「グリーン成長戦略」発表(2020年12月26日の記事より)

 

 

今月のニュース記事

 

●脱炭素 「グリーン成長戦略」発表

 

 政府は、2050年の脱炭素化に向けた「グリーン成長戦略」を正式に発表した。家庭、運輸、産業の各部門のエネルギー利用をできるだけ電気でまかない、使用量が増える電力部門では再生可能エネルギーの導入を加速させる。これにより、50年の総発電量に占める再生エネルギーの割合は、現状の3倍程度の5~6割(参考値)となり、残りは原発と、CO₂を回収する火力発電で計3~4割、水素発電とアンモニア発電で計1割をまかなうことになる。原子力発電については、既存施設の再稼働とともに将来の新増設にも含みを持たせた。規制や税制などの政策を総動員する一方、民間投資を促し、二酸化炭素排出量を50年には森林吸収分などを差し引いた、実質ゼロにする。

 

(第一小論net〈ニュースダイジェスト〉2020年12月26日の記事より)

 

 

 

指導のポイント

 

 「今月のニュース記事」と関連のある目標について、指導の前に押さえておいていただきたいポイントを解説しています。まずは、各目標の概要やめざすところをご確認ください。

 

 脱炭素社会の構築に向けた取り組みは、SDGsではゴール13やゴール7と深くかかわっている。ゴール13は「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」であり、そのターゲット13.2には「気候変動対策」が掲げられ、その指標として「温室効果ガスの低排出型の発展」が盛り込まれている。また、ゴール7は「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」であり、ターゲット7.2は「再生可能エネルギーの割合を大幅に増加させる」として、「再生可能エネルギー比率」がその指標となっている。

 

 一方、SDGsが採択された2015年には、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)にて「パリ協定」が採択された。2100年までの世界の平均気温上昇を工業化以前と比べて2.0℃を下回る水準にし、1.5℃をめざす努力を行うことが定められている。しかしながら、2018年時点ですでに1.0℃以上上昇してしまっているという研究結果も示されており、地球温暖化による「Hot Earth」を回避するために一刻も早い対応が求められている。

 

 その鍵となるのが、再生可能エネルギーの普及である。地球温暖化の原因となる温室効果ガスの一つである二酸化炭素を多く排出するのが発電や工業、運輸などの産業部門であるため、化石燃料を使わないよりクリーンな電力使用を進め、二酸化炭素の排出を劇的に抑制する産業への構造転換をはかることが急務である。

 

 

 

 

学習者用解説

 

 「今月のニュース記事」を学習者用にかみ砕いて解説しています。

 

 気候変動が私たちの生活に目に見える危機として発生しています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次報告書によると、このまま何も対策が講じられないと2100年に地球の平均気温が最大4.8℃上昇するとされています。そうすると、海水面の上昇、干ばつ、洪水などにより私たちの生活が脅かされることになります。また、海が吸収する二酸化炭素が増加することにより、海洋酸性化が進み、海洋生物へ悪影響を与えることになるでしょう。

 

 SDGsゴール13は「気候変動に具体的な対策を」です。二酸化炭素などの温室効果ガス排出量を抑え、地球の気温上昇のトレンドを止めなければなりません。

 

 SDGsと同じ2015年に採択されたのが「パリ協定」です。2100年までの地球の平均気温上昇を工業化以前に比べて2.0℃以内に、そしてできるだけ1.5℃に抑えるというものです。しかし、これは容易なことではありません。発電や工業、運輸などの産業部門での二酸化炭素排出を大きく減少させていかなければなりません。そのためには、企業の取り組みや企業経営を支える金融システムが重要となってきます。「ESG投資」は環境や社会課題などに取り組む企業への投資で、いまや世界の全投資額の1/3を超える水準まで成長しています。

 

 二酸化炭素を排出しない産業に移行するために重要となるのが再生可能エネルギーです。発電、交通、製鉄などの各部門における再生可能エネルギーの普及が必須です。現在、世界全体では発電の2/3以上を石炭や石油などの化石燃料に頼っており、太陽光や風力などからの発電割合はいまだに低い状態です。しかし、再生可能エネルギー比率を高める目標設定を行う国も出てきています。日本政府も、2020年末に2050年の発電量に占める再生可能エネルギーの割合を50~60%とすることを参考値として設定しました。

 

 また、交通部門から排出される二酸化炭素も多くなっています。そこで、トラック、バスをはじめ、自家用車の電化(EV)を進める動きが加速しています。わが国も含めて2030~2035年にガソリン車の新車販売を禁止すると宣言する国や地域が多数出現してきています。

 

 しかしながら、道のりは多難です。火災や農地転換などによる森林面積減少が続いており二酸化炭素の吸収力が弱くなっています。また、途上国を中心に今後人口が爆発的に増加する国もあり、インフラ整備など化石燃料依存度の高い産業が発展する余地が多く残されています。これらの課題に対応していくために、蓄電池、二酸化炭素貯蔵、水素燃料などの新しい技術の開発と実装を急がなければなりません。もちろん、産業部門だけでなく、私たちの暮らしも二酸化炭素をできるだけ排出しない生活様式への転換をしなければならないでしょう。

 

 

 

【問いかけ例】

 

Q.脱炭素社会の実現に向けて私たちができることにはどんなことがあるだろうか?

* 自宅の電力を再生可能エネルギーに変える、省エネに努める、できるだけ公共交通機関を利用するといった、日常生活において取り組めることから、脱炭素への取り組みをしている企業を応援するといった産業面からの支援など、多面的に考察してほしい。

 

Q.日本が世界的に脱炭素社会への移行が遅れていると言われているのはなぜだろうか?

* わが国は世界第5位の二酸化炭素排出国だが、これまで「明確な」脱炭素目標を発表できない状態が続いた。ようやく政府は2020年10月に「2050年脱炭素社会の実現」を宣言し、世界の流れに合流した。この問題は、わが国の産業構造、国際・国内政治、人々の生活スタイル、また世界に対する取組み状況の情報開示など、多角的な視点で問題にアプローチしてほしい。

 

Q.日本においてEVが普及するための課題としてはどんなことが挙げられるだろうか?

* EV(電気自動車)は電動モーターで車を動かすが、その電気を貯めておく蓄電池の性能が重要となってくる。しかし、中国や韓国のメーカーが台頭しており競争が激化している。また、EVの普及には、ガソリンスタンドに代わる充電設備を増やさなければならないという課題や、蓄電池製造過程の二酸化炭素排出抑制など技術的な課題も多い。ガソリンによる内燃機の技術開発で世界をリードしてきたわが国の自動車メーカーにとっては大転換が求められる。このように、技術開発やインフラ整備、また政治的なバックアップなどの視点を持ってほしい。

 

 

 

オリジナル資料

 

 〈資料1〉は、「学習者用解説」と、「生徒への問いかけ例」をまとめたプリントです(A4×2枚)。〈資料2〉は、その月に取り上げるゴールに関連する「入試小論文過去問題」を紹介します。