● アメリカ パリ協定へ正式復帰(2021年2月20日の記事より)
今月のニュース記事
● アメリカ パリ協定へ正式復帰
「米国第一」を掲げ、地球温暖化にも懐疑的だったトランプ前政権によって離脱していた地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」に、米国が正式復帰した。バイデン政権は国際協調重視に方向転換し、温暖化外交の場に戻るが、発言に説得力を持たせるには、新たな削減目標の策定と国内政策が不可欠となる。昨秋以降、欧州や日本、韓国などが相次いで2050年の温室効果ガスの排出実質ゼロを表明し、世界最大排出国の中国も60年の実質排出ゼロをめざす。バイデン氏も「50年実質ゼロ」を掲げるが、野党・共和党には温暖化対策に否定的な議員も多いため、当面は議会の立法手続きが不要な大統領令で行える施策が主体となる見通しだ。
(第一小論net〈ニュースダイジェスト〉2021年2月20日の記事より)
指導のポイント
「今月のニュース記事」と関連のある目標について、指導の前に押さえておいていただきたいポイントを解説しています。まずは、各目標の概要やめざすところをご確認ください。
地球温暖化が急速に進行している。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表したレポートによると、産業革命以来世界平均地上気温は0.85℃上昇したとされている。気候変動に対応するため、2015年のCOP21にて「パリ協定」が採択された。2100年までの世界の平均気温上昇を工業化以前と比べて2.0℃、できれば1.5℃までをめざす。しかし、現在各国が打ち出している排出量削減計画を総計しても、その目標には遠く及ばないと言われており、今年11月に英国グラスゴーにて開催されるCOP26では、さらに踏み込んだ議論が展開される公算が大きい。
地球温暖化は二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの排出増加によって引き起こされるが、近年それらの大気中の濃度上昇が著しい。日本においては、温室効果ガスの3/4を占める二酸化炭素は、エネルギー、製造業、運輸、農林水産などの産業部門での排出が最も多いが、家庭からの排出も約15%を占めている(*1)。また、温室効果ガスの約16%を占め二酸化炭素の21倍の温室効果があると言われているメタンもその排出増加が懸念される。
SDGsターゲット13.2には「気候変動対策」が明確に掲げられており、各国は温室効果ガス排出を劇的に削減していかなければならない。アメリカのパリ協定復帰や、日本や韓国のカーボンニュートラル宣言を追い風として世界レベルで取り組まなければならない。
*1…出典:https://www.jccca.org/download/13335
学習者用解説
「今月のニュース記事」を学習者用にかみ砕いて解説しています。
私たちの生活やそれを支える産業から排出される二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスが増え、地球の気温が上昇しています。地球の気温が上昇すると、異常気象の原因となることは、昨今の洪水や台風の被害からも私たちは実感を持って理解できると思います。しかし、私たちへの影響はそれにとどまりません。異常気象は気候変動として世界中の問題ともなっています。気候変動は農業に負の影響を与えます。多くの飲食物を輸入に頼っているわが国においても人ごとではありません。
国際社会は気候変動に対応するために、1995年から「国連気候変動枠組条約締約国会議;COP」を開催し議論を続けてきました。そして2015年に開催されたCOP21では、2100年までの地球の平均気温上昇を工業化以前に比べて2.0℃以内に、そしてできるだけ1.5℃に抑えるという「パリ協定」が採択されました。
しかし、現状は非常に厳しい状況です。主要な温室効果ガスである二酸化炭素に着目すると、ここ数十年で過去に例を見ないほど空気中の濃度が上昇しています。排出された二酸化炭素は森林や海洋で吸収してくれるのですが、人間社会の発展がそれを上回る排出をしてしまっていると言われています。また、二酸化炭素の排出状況を国別に見てみると、世界最大の排出国は中国で全体の28.2%を占めています。次いでアメリカで14.5%、インド、ロシアと続き、日本は第5位の排出量となっています(*1)。世界全体で二酸化炭素排出を削減していかなければならないため、パリ協定はより大きな意味を持っています。
アメリカはトランプ政権に移行した際に、パリ協定からの離脱を表明しました。二酸化炭素排出に大きく「貢献」しているアメリカの離脱は、世界全体の二酸化炭素排出減の努力、協調に対して大きな影を落としました。しかしながら、バイデン政権に移行した際に即座に復帰を果たしたことは、二酸化炭素排出削減に向けて世界全体の準備が整ったと言えるのではないでしょうか。
わが国政府も2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。「カーボンニュートラル」というのは、二酸化炭素の排出する量と吸収する量をプラスマイナスゼロにすることを言います。これは簡単なことではありません。部門別に二酸化炭素の排出状況を見てみると、エネルギーや運輸などの産業部門での排出が全体の85%を占めますが、家庭部門からも約15%排出しています(*2)。産業における排出量を削減していくのはもちろんのことですが、私たちの生活から排出される二酸化炭素の削減にも私たちは努めていかなければなりません。
残念ながら地球温暖化の進行は待ってくれません。SDGsの期限を迎える2030年には、二酸化炭素の排出量を概ね半分にしなければなりません。産業部門だけでなく、私たち一人ひとりができることを最大限取り組んでいかなければならないのです。
*1…出典:https://www.jccca.org/download/13327
*2…出典:https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/green_innovation/pdf/003_03_01.pdf
【問いかけ例】
Q.わが国をはじめ、アメリカ、欧州などの脱炭素化の取り組みには、どんな共通点や相違点があるだろうか?
* 欧州では新型コロナウィルスからのグリーンリカバリーが展開され、アメリカはバイデン政権が多額の気候変動対策を表明した。ガソリン車の廃止、再生エネルギー政策など、規模や規制の強さの違いなどに着目して比較してほしい。
Q.途上国を中心に、人口拡大に伴い二酸化炭素排出量が今後も増加すると考えられる国も多い。どのような対策が考えられるだろうか?
*発展途上国が現在の先進国並みの生活になると地球に与える影響は計り知れない。インフラ構築、農業など、温室効果ガスをできるだけ排出しない産業技術の開発が急務であることと、それらを採用できる予算をどう確保するかという非常に困難な問題に直面していることに気づいてほしい。
Q.農業部門からの二酸化炭素排出は全体の約10%を占めていると言われている。また、畜産部門からのメタンガス排出も大きな問題となっている。これを削減する方法としてどんなことが取り組まれているだろうか?
* 温室効果ガスの排出が少ない品種の開発、農業機械、輸送の効率化、また、微生物の力を利用してメタンの排出を抑えるなどの技術的なイノベーションが求められるであろう。加えて、農業や畜産業は水資源を大量使用することも地球環境に大きな影響を与えており、早急な問題の解決が求められている。
オリジナル資料
〈資料1〉は、「学習者用解説」と、「生徒への問いかけ例」をまとめたプリントです(A4×2枚)。〈資料2〉は、その月に取り上げるゴールに関連する「入試小論文過去問題」を紹介します。