● 化石燃料の需要 2030年までにピーク(2023年10月25日の記事より)
今月のニュース記事
● 化石燃料の需要 2030年までにピーク
国際エネルギー機関(IEA)が、化石燃料の需要は2030年までにピークを迎え、減少に転じるとの報告書を公表した。地球温暖化の原因となるエネルギー関連の二酸化炭素排出量も25年までに減少に転じるという。30年の世界のエネルギーに占める化石燃料の依存度は約80%から約73%に低下、再生可能エネルギーの割合は現在の約3割から5割に上昇する。電気自動車(EV)の新車販売は30年に現在の10倍に増加し、ヒートポンプや電気暖房が広がるとした。これらの予測は、現在各国政府が掲げる政策に基づく。ただ、現時点では化石燃料の消費量は過去最高の水準で、石油や天然ガスは高止まりするおそれもある。IEAは、30年までに、世界の再生エネルギーを3倍、エネルギー転換への投資を5倍以上に増やすべきと提案している。エネルギー転換に出遅れている日本は、早めに準備を進める必要がある。
(ニュースダイジェスト 2023年10月25日より)
指導のポイント
「今月のニュース記事」と関連のある目標について、指導の前に押さえておいていただきたいポイントを解説しています。まずは、各目標の概要やめざすところをご確認ください。
産業革命以降の世界の気温上昇を1.5℃以内に抑えるために、二酸化炭素などの温暖化ガスの排出を大幅に減らしていく必要がある。そのためには、二酸化炭素を多く排出する、電気を作る方法が問われている。IEA(国際エネルギー機関)が発表した「ネットゼロロードマップ」では、2030年までに再生可能エネルギー(以下、再エネ)比率を3倍に高める必要があるとした。SDGsターゲット7.2でも再エネの大幅な拡大が目標となっている。
再エネ導入に向けて自然エネルギーの活用が進められている。太陽光パネルの設置が住宅だけでなく工場や店舗などでも見られるようになってきた。風力発電については、洋上風力発電プロジェクトが国内外で大規模に進められている。
一方で、産業界も化石燃料からのシフトを進めなければならない。ガソリン車から電気自動車へのシフトは、自家用車だけでなく輸送用トラックやバスなどにも拡がる。また、製鉄や住宅産業、電力を大量消費する情報産業なども同様である。
一部の欧州諸国では再エネ転換に対して野心的な目標を設定して取り組んでいる。わが国は第6次エネルギー基本計画において再エネの主力電源化をめざし、2030年にシェアを36~38%と目標を大幅に上方修正した。しかし、国内では発電コストやインフラ整備など課題が山積している。1.5℃目標を達成するために、GX(グリーントランスフォーメーション)の推進も含めて再エネ化が加速することを期待したい。
学習者用解説
「今月のニュース記事」を学習者用にかみ砕いて解説しています。
地球温暖化が深刻な状態になりつつあることは、高校生の皆さんも実感していることでしょう。2015年にフランス・パリで行われたCOP21(*1)では、産業革命以降の地球の平均気温の上昇を2℃以内、できれば1.5℃以内にすることが「パリ協定」として合意されました。しかし、それだけでは不十分であるとの研究結果が示され、2021年COP26「グラスゴー気候合意」では、1.5℃以内をめざすべきであるという意見が出されました。
世界のエネルギーについて調査研究しているIEA(国際エネルギー機関)は、2023年に「ネットゼロロードマップ」を発表し、気温上昇を1.5℃以内に抑えるためには、2030年までに再生可能エネルギー(以下、再エネ)比率を3倍に高める必要があると報告しました。また、SDGsでは、7番「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」のターゲット7.2でも、再エネの比率を大幅に高めることが目標となっています。
再エネは、発電時に化石燃料を使用しないエネルギーのことを指し、自然エネルギーとバイオマスなどから構成されます。自然エネルギーは、太陽光、風力、水力、地熱などから構成されています。地球温暖化を抑制するためには化石燃料による温暖化ガス排出量を減少させ、再エネによる発電を加速しなければなりません。太陽光発電は、住宅や店舗、工場の屋根に太陽光パネルが設置されているのを見ることもあると思います。風力発電については、陸上に風車を設置するだけなく、海に風車を設置する洋上風力発電プロジェクトが国内外で大規模に進められています。水力発電や地熱発電は、電力における発電シェアが小さいのですが、これからの技術開発や普及が期待されます。
発電と同様に多くの温暖化ガスを排出しているその他の産業も化石燃料からの脱却を進めなければなりません。自動車ではガソリン車から電気自動車へのシフトが世界的に進んでいます。それは、自家用車だけでなく輸送用トラックやバスなどにも拡がっています。世界の物流を支える鉄道や船舶でも電動化が進みつつあります。また、製鉄業では火力から電力への転換が進められていますし、そのほかにも住宅産業や電力を大量消費する情報産業なども再エネ使用が進められてきつつあります。
しかし、再エネはこれまでの石炭火力発電に比べて、発電時のコストがかなり高いことがネックとなっていますし、私たちの生活様式の転換が迫られることから、普及に時間がかかってしまいます。しかし、欧州諸国などでは再エネ転換に対して野心的な目標を設定してドラスティックに転換を進めています。わが国では、資源エネルギー庁が2021年に発表した第6次エネルギー基本計画で、再エネの主力電源化をめざし2030年に発電におけるシェアを現在の約20%から36~38%へと高めるように目標を大幅に修正しました。
1.5℃目標を達成するために、GX(グリーントランスフォーメーション)(*2)の推進も含めて省エネ化を加速させていかなければなりません。
*1…Conference of the Parties、日本では「国連気候変動枠組条約締約国会議」と言われ、1995年から毎年開催されている。COPはほかにも「生物多様性に関する国際条約」などもある。
*2…再エネ中心に経済や社会のシステムを変革しようとする取り組みのこと。
【問いかけ例】
Q.化石燃料を使用しない社会に移行すると私たちの生活はどう変わるだろうか?
* 私たちの生活に欠かせない電気が再エネで作られるものが中心となってくる。再エネは現在ではコストが高く、家計の負担が増える可能性がある。また、自家用車が電気自動車に変わると、充電設備の設置が必要となるなど、自分たちの生活に結びつけながらこの問題を考えてみたい。
Q.再生可能エネルギーの導入に向けた課題とは?
* 最大の課題はコストである。比較的安い石炭や石油に比べて割高になることは避けられないため、特に企業での導入に際しては課題となる。また、太陽光や風力などは自然環境に左右されるため、それを制御するシステムの導入を考えなければならない。加えて、再エネ関連インフラの整備も必要となる。洋上から送電する設備、電気をためておくバッテリー、などである。
Q.わが国で進められている洋上風力発電プロジェクトとは?
* 現在約58.6MWの発電容量を2030年までに1,000万kW、2040年までに3,000~4,500万kW(案件形成)まで拡大する計画が進められている。北海道や東北、九州など、20以上の地域を特別地域に指定し、集中的に開発が進められている。しかし、わが国の技術は中国や欧州などの技術、人材に頼らざるを得ない側面があり、今後の課題となっている。
オリジナル資料
〈資料1〉は、「学習者用解説」と、「生徒への問いかけ例」をまとめたプリントです(A4×2枚)。〈資料2〉は、その月に取り上げるゴールに関連する「入試小論文過去問題」を紹介します。