目標13と関連づけて考えよう!

● 大西洋の海洋循環 止まる可能性(2023年7月26日の記事より)

 

 

 

今月のニュース記事

 

● 大西洋の海洋循環 止まる可能性

 

 地球の気候に影響を与える大西洋の海洋循環が今世紀中にも止まる可能性があるとの予測を、デンマーク・コペンハーゲン大学の研究チームがまとめた。環境を激変させ、取り返しがつかなくなる転換点(ティッピングポイント)の1つとも指摘され、将来の世界の気候に深刻な影響を与える可能性がある。海水には何千年もかけて地球全体をめぐる「海洋大循環」という大きな流れがある。このうち大西洋の南北方向を流れる海洋システムは地球規模で熱を運ぶため、気候に大きな影響を与えるが、ここ数年、温暖化の影響などによって循環が弱まっていると報告されていた。チームが大西洋循環が止まる時期をシミュレーションした結果、このままの変化が進めば早ければ2025年、遅くとも95年までに起こる可能性が高いことが示された。

 

(ニュースダイジェスト 2023年7月26日より)

 

 

 

指導のポイント

 

 「今月のニュース記事」と関連のある目標について、指導の前に押さえておいていただきたいポイントを解説しています。まずは、各目標の概要やめざすところをご確認ください。

 

 パリ協定では地球の平均気温上昇を産業革命時から2℃以内、できれば1.5℃以内に留めることが合意された。その後、気候変動にかかわるさまざまなデータや、世界各地で多発する災害が、気候変動の影響と考えられることなどから、対策を加速する必要に迫られている。しかしながら、すでに気温は1.1~1.2℃上昇しているとの研究結果が報告されている。その要因である温室効果ガスの排出を一刻も早く止めなければならない。


 しかし、気候はさまざまな要因で変化する。人為的要因として、温室効果ガスの排出増加が挙げられるとされているが、自然的要因としては、太陽活動の変動、地球の公転軌道の変動、火山の噴火による影響、そして、新聞記事で指摘されているような海洋大循環がある。


 これは、大気による海水の冷却と高塩分化により密度を高めた表層の海水が深層へと沈み込み、他方では表層に浮き上がる動きが数千年かけて世界的規模で発生し、海水が循環する動きのことをいう。海洋の循環は、暖かい海水を高緯度に、冷たい海水を低緯度に運ぶ作用があり、気候にも大きく影響を与えるとされている。地球温暖化によってこの循環が遅くなる、もしくは停止する可能性が大きくなっていることが最近の研究で明らかになった。つまり、温暖化がさらなる気候変動を引き起こすのである。

 

 


 

 

学習者用解説

 

 「今月のニュース記事」を学習者用にかみ砕いて解説しています。

 

 集中豪雨による洪水や森林火災で多くの人が亡くなったというニュースが今年も世界各国で報告されていることは、皆さんもニュース等で目にしていることでしょう。その原因は気候変動であるとされています。国際社会の対応として2015年のCOP21(*1)では、地球の平均気温上昇を産業革命時から2℃以内、できれば1.5℃以内に留めるという「パリ協定」が合意されました。その後、気候変動にかかわる最新のデータが示され、また世界各地で気候変動の影響と考えられる災害が多発したことで、気候変動対策を加速する必要に迫られています。2021年COP26の「グラスゴー気候合意」では、できる限り1.5℃をめざすべきだという方向性が確認されました。SDGsでも13番「気候変動に具体的な対策を」でその対策が促進されています。


 しかしながら、すでに気温は1.1~1.2℃上昇しているとの研究結果が報告されています。一刻も早く、その大きな要因である、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの排出を止めなければならないのです。


 加えて、地球の気候はさまざまな要因で変化します。それは人為的要因と自然要因とに区別されます。温室効果ガスの排出増加による地球温暖化は人為的要因とされています。一方で自然的要因としては、太陽活動が強くなったり弱くなったりすることに対する影響、地球が太陽の周りを公転する軌道がずれることによる影響、火山の噴火による粉塵(エアロゾル)の影響、そして、今回の新聞記事で指摘されている海洋大循環の影響が考えられています。


 海洋大循環とは、数千年周期で表層の海水と深層の海水が世界中でゆっくりと循環する動きのことを言います。温められた表層の海水がグリーンランド沖と南極海沖の2か所で深層に沈み込み、世界の数か所のポイントでは深層水が表層に湧き上がってきているとされています。このような循環は、温度差や塩分濃度の差から起こると言われています。陸地の気候は海水温度に影響を受けますので、海洋大循環の動きが変化すると、気候も変化するということになります。それが新聞記事にもあるように、地球温暖化の影響でこの海洋大循環が遅くなっている、もしくは停止する可能性が高くなっていることがわかってきました。つまり、二酸化炭素排出などによる人為的な地球温暖化が、海洋大循環という自然現象に影響を与えていると言えるのです。この点からも一刻も早く、温室効果ガスの排出を抑制し、地球温暖化に歯止めをかける必要があるのです。


*1…COPとは「Conference of the Parties」の略で「国連気候変動枠組条約締約国会議」。毎年開催され、世界各地の政治家、研究者等が気候変動対策について協議する場。

 

 

【問いかけ例】

 

Q.海洋大循環の変化は気候のほかにどのようなことに影響があるだろうか?

* 海洋大循環は海水温度や塩分濃度の変化をもたらすことから、生態系へ与える影響が大きい。プランクトンの量が変化することによってそれを主食とする海洋生物に影響を与える可能性がある。このことが人類に及ぼす影響を考えさせつつ、問題がリンクしていることに気づかせたい。

 

Q.温室効果ガス排出を抑制するにはどのような方法が考えられるだろうか?

* 人々が日常生活の中で取り組めることにまず関心が向くだろう。こまめに電気のスイッチを切る、エアコンを適切に使う、移動はできるだけ徒歩や自転車にするなどである。一方で、温室効果ガス排出は産業セクターの影響が非常に大きい。生徒にとってはイメージしにくいテーマではあるが、企業等の取り組みについて調べてみてほしい。また、対策費用等の関係から、対策が必ずしも容易でないことにも気づかせたい。

 

Q.気候変動対策に関する国際的な動向はどうだろうか?

* 国連、国連グローバルコンパクト、COP、OECD、EUなどといった国際機関の動向はもちろん、WWFやGreenpeaceといった国際NGO、さらには、各業界団体や教育機関など、世界中で気候変動対策の動きが加速している。気候変動対策は、身のまわりで自分ができることからスタートすることも必要であるが、国際的な動向をしっかりと確認することもあることを伝えたい。

 

 

 

オリジナル資料

 

 〈資料1〉は、「学習者用解説」と、「生徒への問いかけ例」をまとめたプリントです(A4×2枚)。〈資料2〉は、その月に取り上げるゴールに関連する「入試小論文過去問題」を紹介します。