目標3と関連づけて考えよう!

● 結核「低蔓延」に(2022年8月31日の記事より)

 

 

今月のニュース記事

 

● 結核「低蔓延」に

 

 厚生労働省は、国内で2021年に結核との診断を受けた患者は1万1,519人で、人口10万人当たりの新規患者数を示す罹患率は9.2人だったと発表した。統計が残る1951年以来、初めて10人を切り、世界保健機関(WHO)の分類で「低蔓延(まんえん)国」となった。厚労省によると、国内で2021年に結核と診断されて死亡した人は1,844人。明治から戦前にかけては「不治の病」と恐れられ、最も死者が多かった1943年には17万人が亡くなった。貧しく栄養状態が悪いことで病気が広がったが、戦後、特効薬の登場や栄養状態の改善、感染対策によって患者は急激に減少した。しかし80年代以降、長期の潜伏を経て発病する高齢の患者が目立つようになり、減少のスピードは落ちた。その後、罹患率が高い水準が長く続き、主要7か国(G7)では最も遅い「低蔓延国」の実現となった。

 

(ニュースダイジェスト 2022年8月31日より)

 

 

 

指導のポイント

 

 「今月のニュース記事」と関連のある目標について、指導の前に押さえておいていただきたいポイントを解説しています。まずは、各目標の概要やめざすところをご確認ください。

 

 SDGs3番は「すべての人に健康と福祉を」であり、世界中の人々が健康で人間らしい生活を送れるようにすることが目標とされている。その中でも、ターゲット3.3は、エイズ、結核、マラリアなどの深刻な感染症を根絶することが示されている。今回記事が扱っている「結核」は、結核菌が空気感染することによって広まる感染症である。発症すると肺やその他の臓器で深刻な症状を引き起こし、場合によっては死に至ることもある、注意を要する感染症である。

 

 結核はこれまでに約17億人が感染したとされている。これは、世界人口の1/4に迫る数である。さらに、2020年の1年間でも1,000万人が感染し、そのうち150万人が死亡したとされている。今回日本は、人口10万人当たりの新規患者数を示す罹患率が初めて10人を切り、WHOの分類で「低蔓延国」に分類された。が、2021年には11,519人が感染し、1,844人が死亡している状況であるため、引き続きの感染対策が必要だ。

 

 結核が広まる原因としては、不衛生な生活環境、予防接種や治療に関する医療の未発達、知識不足などが考えられる。しかし、世界的には都市人口の増加傾向が続いており、スラムのような過密で不衛生な場所で暮らさざるを得ない人も少なくない状況であり、また、新型コロナのパンデミックへの対応が喫緊の課題である中で、こうした状況をどのように改善していくのか。容易に解決できない課題である。

 

 


 

 

 

学習者用解説

 

 「今月のニュース記事」を学習者用にかみ砕いて解説しています。

 

 新型コロナウイルスのパンデミックでは、学校に通うことができなかったり、さまざまな行事が中止になったり、外出の自粛が求められたりと、私たちの日常生活が大きく制限されました。人間の日常生活には人と人との接点が日常的に存在しています。そこに病原菌が何らかのルートに乗り人から人へ感染することで、爆発的に感染者が拡大し、それに伴い深刻な状態に陥ってしまう人や死亡する人が出てきます。

 

 そのような感染症は新型コロナだけではありません。例年冬になると流行するインフルエンザをはじめ、エイズ、マラリア、B型肝炎、そして結核なども人体に深刻な影響を与える感染症と言われています。

 

 SDGs3「すべての人に健康と福祉を」では、すべての人の健康と福祉の促進が目標として設定されています。妊産婦や乳幼児の死亡率を低下させること、薬物やアルコールの乱用による被害の根絶、交通事故や大気汚染での死亡者数を減らすこと、さまざまな保険サービスの充実などがめざされています。そして、結核感染者を減らすことが目標の一つとされています。結核は、肺などの臓器が結核菌に感染し、炎症を引き起こすことで死に至る可能性も高い深刻な感染症です。

 

 SDGsでは、その成果を測定するための指標として、人口10万人当たりの感染者数が設定されています。新聞記事では、日本のこの数値が9.2人となり、人口10万人当たりの結核感染者数が10人を下回ったことから、「低蔓延国」と世界保健機関(WHO)から認定されました。とは言っても2021年1年間で1,844人が死亡していて、決して楽観視してよい状態ではないでしょう。

 

 世界に目を向けると、感染への対策が十分でなく、状況が深刻な国々が少なくありません。2020年のデータを見ると、アフリカのレソト王国では、結核にかかる人が人口10万人当たり650人となっています。南アフリカやフィリピンでも約600人と多い人数です。その他、アフリカや東南アジア諸国を中心に深刻な感染症の一つとなっています。

 

 日本では、結核の対策として予防接種が促進されていますが、予防や対策が十分にとられていない国々で感染者が多くなっていると考えられます。スラム街などの不衛生な生活環境で暮らす人が多かったり、予防接種や治療に関する医療が発達していなかったり、結核に関する知識が不足していたりすることなどが原因で、結核感染者を減らすことは容易ではありません。

 

 グローバル化した社会では、感染症が拡大するスピードと規模が非常に速く大きいことを、新型コロナのパンデミックによって私たちは思い知らされました。国内での対策はもちろん、世界中に目を向けて対策を行うことの重要性を、改めて考えなければいけないでしょう。

 

 

 

【問いかけ例】

 

Q.わが国において結核などの感染症の蔓延を引き起こさないためにはどうすればよいだろうか?

* 感染症によって感染源や感染ルートが異なるので、詳細を分析して適切な対応を行うことが重要である。新型コロナのパンデミックでは、科学的知見からマスクをしたり接触を控えたりすることで、その対応を適切にとることができた。加えて、正しい知識を得ることが重要であることも我々は学んだ。それらを改めて確認し、個人レベル、コミュニティーレベル、行政区レベル、国家レベルでできることをそれぞれ考えてみたい。

 

 

Q.環境が整わない国に対して結核を予防するにはどうしたらよいだろうか?

* 世界では急速な都市化が進んでおり、このような地域では、今後も不衛生で過密な居住環境を余儀なくされる人が少なくないと考えられる。医療・保険サービスに対してできること、教育的にできること、政治的にできることなど、いくつかの方向から対策を考えたい。

 

 

Q.エイズやマラリアなど、SDGs3番で指摘されているほかの感染症の状況はどうなっているだろうか?

* SDGs3.3のターゲットでは、結核に加えて、エイズ、マラリア、B型肝炎、その他の熱帯病が挙げられている。それぞれ、どのような感染症なのか、感染状況、予防・対処方法を確認したい。

 

 

オリジナル資料

 

 〈資料1〉は、「学習者用解説」と、「生徒への問いかけ例」をまとめたプリントです(A4×2枚)。〈資料2〉は、その月に取り上げるゴールに関連する「入試小論文過去問題」を紹介します。