目標13と関連づけて考えよう!

● 気候変動の影響 食料価格が高騰(2021年11月9日の記事より)

 

 

今月のニュース記事

 

● 気候変動の影響 食料価格が高騰

 

 世界的な異常気象に見舞われた今年、穀物などの収穫量が落ち込み、食料価格が高騰している。食糧農業機関(FAO)が発表した10月の世界の食料価格指数(2014~16年を100とする)は133.2ポイントで、11年7月以来の高水準。熱波と干ばつで北米、ロシアの小麦の収穫量が減ったことなどが影響した。米航空宇宙局(NASA)などの研究チームが科学誌に掲載した予測では、気温上昇がこのまま続けば、今世紀中にトウモロコシの平均収穫量は現状より24%減るという。世界食糧計画(WFP)は、世界の平均気温が産業革命前より2℃上昇した場合、1億8,900万人が飢餓に、4℃上昇すれば18億人が食糧危機に陥ると推計しており、今後も気候変動が食糧危機を引き起こす懸念があると警鐘を鳴らす。

 

(第一小論net〈ニュースダイジェスト〉2021年11月9日の記事より)

 

 

 

指導のポイント

 

 「今月のニュース記事」と関連のある目標について、指導の前に押さえておいていただきたいポイントを解説しています。まずは、各目標の概要やめざすところをご確認ください。

 

 10月16日の「世界気候デー」を前に、国連世界食糧計画(WFP)は、気候変動に対して至急対策行動をとらなければ世界の飢餓人口が急増すると警告を発した(*1)。産業革命以降、地球の平均気温はすでに1.1℃上昇しているとの研究結果が明らかになっており、それに起因する干ばつや豪雨などが食料生産に大きなダメージを与えることは言うまでもない。

 

 また、2020年からの新型コロナウイルスのパンデミックは、この状況をさらに深刻にしている。食料生産や流通が滞っただけでなく、働く場を失われた人々は日々の食料確保にも難儀している。加えて、世界の人口は増加の一途をたどっており、多くの人口を養うための食料を確保できるかどうかも見通せない状況になっている。これらの影響から、世界の飢餓人口は増加に転じていると見られており、食料の生産、確保の問題が世界における喫緊の課題となっている。

 

 2021年10月下旬から英国グラスゴーで開催されたCOP26の会場では、気候変動問題と共に食料の安全保障に関する問題が議論された。途上国への資金的、技術的援助を行いながら持続可能な農業を推進することが取り決められた。

 

 一刻も早く、SDGs13番「気候変動に具体的な対策を」2番「飢餓をゼロに」を推し進める必要がある。

 

 *1…WFP「世界の食料安全保障と栄養の現状2019」
https://www.fao.org/publications/sofi/en/

 


 

 

 

学習者用解説

 

 「今月のニュース記事」を学習者用にかみ砕いて解説しています。

 

 最近、食料品の値段が上昇していることに気づいている人も多いのではないでしょうか。特に小麦粉を使っている食品、油、牛肉などの値上げは私たちの食卓にも直接関係してくるので、困ってしまいます。これは、もちろん新型コロナウイルスのパンデミックが原因と言われています。生産、加工工場の操業停止などによる生産量の減少や、輸送するドライバー不足により品不足に陥り、価格上昇を招いています。加えて、原油価格の上昇も価格上昇に影響しているでしょう。

 

 しかし、より深刻なのが気候変動です。私たちの生活が豊かで便利になる傍ら、産業革命以降の地球の気温はすでに1.1℃上昇していることがわかりました。これが気候変動をもたらし、干ばつや豪雨などで食料の生産がままならなくなっています。途上国では、直接的な食料不足による飢餓人口の増加が懸念され、先進国であっても農産物を生産し輸出している国は大きな影響を受け、世界的な食料品価格の上昇につながっていきます。SDGs2番「飢餓をゼロに」では、飢餓の撲滅をめざしていますが、逆に飢餓人口が増えているという調査結果が明らかになり、事態は予断を許さない状況となっています。飢餓の問題はSDGs1番「貧困をなくそう」や3番「すべての人に健康と福祉を」にも大きく関係してくるのは言うまでもありません。

 

 SDGs13番「気候変動に具体的な対策を」では気候変動に歯止めをかける取り組みが推進されています。2015年の「パリ協定」では、世界の平均気温の上昇を2℃以内、できれば1.5℃以内とすることが確認されました。さらに進んで2021年10月下旬からイギリス・グラスゴーで開催されたCOP26でまとめられた「グラスゴー気候合意」は、地球の平均気温の上昇を1.5℃までに抑える努力をすることが確認されました。加えて、このCOP26に集った国や団体等から、途上国などの農業分野に資金を投入し技術化を促しながら生産を安定させる取り組みを支援することが確認されました。いち早く気候変動に歯止めをかけ、安定的な食料の生産と流通を確保しなければならないのです。

 

 しかしながら、世界の人口は増加し続けています。世界人口白書によると、2021年の世界人口は約79億人であり、2050年には97億人、2100年には109億人になることが予想されます。一方で、食品ロスの問題も顕在化しています。わが国では、年間約570万トンの食品が食べられるにもかかわらず廃棄されていて、生産と消費のアンバランスさに私たちは問題意識を強く持たなければなりません。このように、気候変動への対策を行い人口急増に耐えうることができる「食の安全保障」は、私たちが避けて通れない問題となっています。

 

 

 

【問いかけ例】

 

Q.気候変動は農業生産にどのような影響を及ぼしているだろうか?

* アフリカ・サヘル地域では極度の干ばつが発生し作物が育たなくなっている。オーストラリア、米国、ヨーロッパなどでは、少雨による乾燥が続き山火事の発生が頻発し、地下水の枯渇も深刻となっている。中国や東南アジアの国々では、洪水により田畑が流されるという被害も出ている。気候変動は私たちの生活の根幹である食料生産を脅かしている現状を理解させたい。

 

Q.気候変動を緩和する対策はどのようなものがあるだろうか?

* 気候変動の主な原因は地球温暖化である。これは二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの排出量が増えることによってもたらされる。対策として、排出量を削減することや、二酸化炭素を貯蔵する技術、メタンを回収する技術などが開発されている。あらゆる産業、すべての市民がかかわる問題なので、政策的観点、技術的観点、市民活動の観点など、いくつかの方向性からその対策を考えさせたい。

 

Q.未来の農業はどのように変化しているだろうか?

* 農業には慢性的な担い手不足の問題や、水や温室効果ガス排出の削減が求められている。生産性を向上させるための農業技術、気候変動に強い品種開発、IT化による効率化などが一層進むと思われる。加えて、穀物由来の代替肉や昆虫食など、農業の根幹を覆すような食料生産のあり方などにも目を向けさせたい。

 

 

 

オリジナル資料

 

 〈資料1〉は、「学習者用解説」と、「生徒への問いかけ例」をまとめたプリントです(A4×2枚)。〈資料2〉は、その月に取り上げるゴールに関連する「入試小論文過去問題」を紹介します。