はじめに
最初に,私自身が授業でSDGsを扱う際に大事にしていることから紹介させていただきます。SDGsでは,国内の問題を考えることも大切ですが,日本だけではなく各国が協力して取り組むべき目標ですので,日本と他国の違いを認識することも大切です。たとえば,日本では,「ごみはごみ箱に」が基本です。ごみの種類によって,分別もされています。しかし,そうでない国ももちろんあります。
カンボジアでは首都のプノンペンを中心に開発が進んでいる。写真はプノンペン郊外にあるゴミ山の様子である。現在,このようなゴミ山の多くが開発計画の一環で姿を消そうとしている。
2014年6月撮影/カンボジア・プノンペン/撮影:村上彩
上の写真は,カンボジアの首都・プノンペン郊外にあるごみ山の様子です。レジ袋などのプラスチックごみも見えます。こういった風景は,開発途上国と呼ばれる国でよく見かける風景と言われていますが,では,そもそもなぜごみをこのように捨ててしまうのでしょうか。これは,海にプラスチックごみが捨てられる理由とも関わる部分がありますので,海洋プラスチック汚染について学ぶとき,単元導入の問いとして考えてみてもよいと思います。
補足ですが,上の写真には続きがあり,「ごみがなくなることで生活が営めなくなる人たち」という話に続いています。ごみを失くすことによって,何か別の問題が生まれる可能性もあり,目標15が達成できても,今度は目標1「貧困をなくそう」が達成できないという状態(トレードオフ)が生まれてしまいます。解決策を考えるときは,こういった視点を持つことも鍵になります。
(引用元:JICA地球ひろば グローバル教育コンクール 2014年度優秀作品 写真部門)
https://www.jica.go.jp/hiroba/program/apply/global_edu/2014/ku57pq00000dy4gp-att/01_08.pdf
さて,SDGsを絡めるときに,授業の目標の一つとして必ず入れたいのが,「自分事化」の観点です。これは,「なんだか遠くで大変そうなことが起こっているんだな」といった対岸の火事の感覚で終わるのではなく,生徒自身が,自分と,持続可能な社会や提示されている問題との関連を考え,自分の課題として捉えるということです。英語の授業の場合,自分の課題として捉え,どういった行動をとるかを考えて,最後に表現活動(アウトプット活動)を行うと,授業としてまとまりが出ると思います。
海洋プラスチック汚染について
CREATIVE:Lesson 7 To Stop Plastic Pollution
Vivid:Lesson 9 Stop Microplastic Pollution!
プラスチックごみの問題,特にプラスチックごみが海の生き物に与える影響は,昨今ニュースなどでも話題になっています。教科書の中の海洋プラスチック汚染に関連したCREATIVEのLesson 7:To Stop Plastic Pollutionと,VividのLesson 9:Stop Microplastic Pollution!では,プラスチックごみが細かく砕かれた「マイクロプラスチック」についておさえながら,最後には解決策の提案,他国の事例,読者へのメッセージといった形に進んでいきます。
この単元で取り扱うSDGsの目標ですが,主に以下の4つになるかと思われます。
さて,授業でいかに「自分事」として考えさせるかですが,これを考えて発表する表現活動は,各LessonのGoalにあり,まとめの活動となるライティング(パラグラフ・ライティング)と合わせられると思います。
CREATIVE:Lesson 7
整理した内容を活用して,世界的な環境問題の解決のためにできることについてパラグラフを書くことができる。
Vivid:Lesson 9
整理した内容を活用して,学校の環境問題の改善を訴えるためのパラグラフを書くことができる。
なお,問題を自分事として捉えるためには,教科書の内容を普段の生活とつなげていくことが有効です。各レッスンは,プラスチックストローが紙ストローに変わった,もしくは,プラスチックストローが使われなくなった話から始まります。たとえばPart 1の導入で,「最近,自分の身の周りから姿を消しつつあるプラスチック製品は何か(例:レジ袋)」という質問から始めてはいかがでしょうか。
では,レッスンの中で自分事とつなげるポイントについて紹介します。いくつかあるとは思いますが,私が注目したのは,CREATIVE,VividいずれもレッスンのPart 3で述べられている「マイクロプラスチックと食物連鎖」の部分です。微生物がマイクロプラスチックを食べ,その微生物を魚が食べ,その魚を人間が食べる,という部分です。人体への影響については詳しく述べられておらず,実際にまだ詳しく解明されていない部分も多いようですが,さらなるインプット活動として,以下の英文記事や動画が参考になると思います。
・You’re literally eating microplastics. How you can cut down exposure to them.
(The Washington Post, 2019年10月の記事)
・海洋プラスチックごみ問題とは? 日本一わかりやすく解説します
(原貫太 フリーランス国際協力師,2020年10月)
・[地球のミライ]小さく砕けたプラスチックの脅威 (NHK,2021年3月)
動画のほうは日本語ですが,この過程は,あくまでレッスン最後のまとめ,パラグラフ・ライティングにつなげるためのインプット活動です。英語の動画は難易度が高くなってしまいますので,日本語の動画を見せる,あるいは自宅で見てくるように指示をして,レッスン内容に関連する知識を深めれば,得た知識を思い出しながら,自分の生活と関連付けて思考しながらライティング活動に臨むことができます。
パラグラフ・ライティングの内容です。CRAETIVEのLesson 7だと,115ページのOver to You,VividのLesson 9だと,139ページのActivity Plusがこれに該当します。
特にCREATIVEの場合,「世界的な環境問題の解決のために」という文言を読むと,「自分事」と関連付けることは難しく感じられてしまいます。ここは,小さな問題でも,積もり積もって大きな問題になるという視点から,普段の自分ができることを書いてもよいのではないでしょうか。先に紹介した動画にあった,コンタクトレンズの話などは,経験のある高校生も多いかもしれません。
次に,Vividの場合です。こちらも「学校の環境問題の改善」とありますが,あまり定義が広すぎると,「自分事化」が難しくなります。たとえばですが,プラスチックごみの話を読んだので,「学校でプラスチックごみを減らすためにできること」を条件に入れてもおもしろいかもしれません。「ペットボトルから服が作れると聞いたので,制服はペットボトルから作ろう」「購買のパンはすべて紙袋に入れてもらう」など,さまざまなアイディアが出てくると思います。
プラスチックごみ問題は世界的な環境問題ですので,国外にもたくさん教授用の資料があります。その一つ,National Geographicのリソースライブラリーには,授業で使える動画教材,記事,学習指導案や活動例がいくつか紹介されています。すべて英語ですが,小学3年生から高校3年生まで幅広いレベルに対応していますので,ぜひのぞいてみてください。
https://www.nationalgeographic.org/topics/resource-library-plastic-pollution/?q=&page=1&per_page=25
AIの発展について
CREATIVE:Lesson 9 Will Human Beings and AI Go Hand in Hand?)
Vivid:Lesson 8 Our Future with Artificial Intelligence
人工知能(以下AI),もののデジタル化は,近年急速に発展していて,私たちの生活の中にも驚くほど自然になじんできています。この話題に関連したCREATIVEのLesson 9:Will Human Beings and AI Go Hand in Hand?と,VividのLesson 8:Our Future with Artificial Intelligenceでは,身の周りにあるAIや,世代によるAIの捉え方,AIとは何か・その仕組みについて,どのように活用されているかを学んでいきます。また,AIに取って代わられる職業についても言及されていきます。
この単元に関連するSDGsの目標は,主に「目標9:産業と技術革新の基盤を作ろう」になるかと思われます。
しかし,この目標の詳しい中身を見ていくと,公平なアクセスに重点を置いた経済発展や福祉の支援とあるので,達成することが「目標3:すべての人に健康と福祉を」や,「目標10:人や国の不平等をなくそう」にもつながると考えられます。
さて,この単元とSDGsを絡めていくには,機械化やキャッシュレス化をはじめとした技術革新と,持続可能な社会の関連性を考えていってはどうでしょうか。さらに,「自分事」として捉えるために,日本国内で,技術革新がどのように持続可能な社会につながっていくか,その事例から学ぶのもおもしろいかもしれません。
そのためには,どういう場面で,なぜ,どのようにAIが活用されているかを知るインプット活動が有効だと思います。以下に教材として使えそうな動画を載せておきます。Google Japanの動画は日本語ですが,日本語での字幕が付いているので,生徒を2人1組のペアにして,音声を消した状態で片方の生徒にだけ見せ,ペアの生徒に英語で内容を伝えさせるといった活動にも使えます。
・AIで創る未来 ―― 地方の人手不足を解決するために。あるクリーニング店の挑戦。
(Google Japan,2018年10月)
・Innovation Japan : AI To Advance Regenerative Medicine (Prime Minister’s Office of Japan, 2017年4月)
教科書本文と,これらの内容でインプット活動を行った後,以下のGoalsに関連して,リテリング,ライティング,スピーチ,ショートプレゼンテーションなどのアウトプット活動ができると思います。
CREATIVE:Lesson 9
将来の人間とAIのあるべき姿について的確に理解し,その内容を整理して伝えることができる。整理した内容を活用して,人類とAIが共存する将来について想像して説明することができる。
Vivid:Lesson 8
AIの特徴や活用事例について的確に理解し,その内容を整理して伝えることができる。
また,この目標に関連した他国の事例に,エストニアが挙げられます。エストニアは電子国家として知られ,所得税申告や投票などもインターネット上でできるように整備されています。プラスアルファの活動として,以下の記事に自宅学習で取り組ませ,日本とエストニアの違いについて考える活動を入れてもいいかもしれません。
・How a tiny country bordering Russia became one of the most tech-savvy societies in the world
(CNBC,2019年2月)
https://www.cnbc.com/2019/02/08/how-estonia-became-a-digital-society.html
・Smart Cities: Tallinn, Estonia (National Geographic, 2018年3月)
https://www.nationalgeographic.com/travel/article/tallinn-estonia
技術革新を「自分事」と捉える一つのキーワードは,「自分の生活が便利になるか」だと思います。先の例にもありましたが,働き手がいなくて困っている地域は,ロボットやコンピューターを導入することで問題が解決の方向へ進みます。実際に自分の生活の中で,「これがあったらいいのに」「こういうことで困っている」という場面を思い浮かべ,AIを導入することでどのような変化が生まれると考えられるか,ここを最後のまとめの活動として入れられると思います。(CREATIVEのLesson 9でしたら,145ページのOver to Youがここに該当します。)
最後に,SDGsの取り組み事例紹介として,JICA地球ひろばの「共につくる 私たちの未来」という冊子を紹介させていただきます。SDGsの各目標を,さまざまな国での事例といっしょに紹介しています。各ページの「調べてみよう 考えてみよう」欄が,自分事とつなげる問いになっています。この部分を英語での表現活動にあてることもできると思います。
なお,以下のサイトからPDFでダウンロードできます。
JICA地球ひろば 毎日小学生新聞 「共につくる 私たちの未来」
https://www.jica.go.jp/hiroba/teacher/report/press/2017.html
The content of this publication has not been approved by the United Nations and does not reflect the views of the United Nations or its officials.