● 日本被団協 ノーベル平和賞受賞(2024年12月11日の記事より)
今月のニュース記事
●日本被団協 ノーベル平和賞受賞
核兵器の非人道性を語り継ぎ、核廃絶の必要性を訴えてきた日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)が10日、ノーベル平和賞を受賞した。授賞式では、代表委員の田中煕巳(てるみ)さんが演説し、「人類が核兵器で自滅することのないように」と訴えた。1945年8月、米国が投下した原爆により、同年末までに広島で約14万人、長崎で約7万4千人の命が奪われた。それから79年経ち、「被爆者健康手帳」を持つ被爆者(10万6,825人)の平均年齢は85.58歳となった。被爆者らは国内外で、核兵器の恐ろしさを説き、核廃絶に向け尽力してきた。被団協は7年ぶりの核軍縮・核廃絶関連の受賞者となり、現在の核兵器をめぐる議論に一石を投じることになる。ノーベル委員会は、授賞式で被団協の功績を紹介し、核兵器のない世界の実現に向けた努力、核兵器が使われたことによる悲惨な記憶を次世代につなげていくことの重要性も強調した。
(ニュースダイジェスト 2024年12月11日より)
指導のポイント
「今月のニュース記事」と関連のある目標について、指導の前に押さえておいていただきたいポイントを解説しています。まずは、各目標の概要やめざすところをご確認ください。
日本原水爆被害者団体協議会(以下、被団協)が2024年のノーベル平和賞を受賞した。日本人としては1974年の佐藤栄作元総理大臣以来、50年ぶりの受賞となった。
被団協は、各都道府県にある原爆被爆者団体の全国協議会で、1956年に発足した。「ふたたび被爆者をつくらないために」という基本的要求を掲げ、核兵器廃絶と原爆被害への国家補償要求など、精力的な活動を行っている。
世界では、ウクライナ紛争、イスラエル=パレスチナ紛争、ミャンマーやスーダンの内戦など、各地で紛争が絶えない。国際社会は「核兵器の不拡散に関する条約」を1970年に発効し、核の開発・使用について監視してきた。しかし、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の「核兵器国」以外の締結国の核開発疑惑や、締結外国での核実験が実施されるなど、その効力が厳格に発揮されているとは言い難い。加えて、2017年に国連で採択された「核兵器禁止条約」に日本は不参加となっており、唯一の被爆国としての役割を果たしているとは言えないだろう。
SDGs16には、すべての形態の暴力及び暴力に関連する死亡率を大幅に減少させるターゲットが設定されている。不確実性が高まる世界情勢において、核兵器が使われることなく、持続可能な繁栄を希求するために、この日本被団協のノーベル平和賞受賞が新たなムーブメントを巻き起こすきっかけになることを期待したい。
学習者用解説
「今月のニュース記事」を学習者用にかみ砕いて解説しています。
ノーベル平和賞は、世界平和の促進や安定に大きく貢献した個人や団体に与えられる賞です。2024年に日本原水爆被害者団体協議会(以下、被団協)がこの賞を受賞しました。日本人としては1974年に佐藤栄作元総理大臣が受賞して以来、50年ぶりの受賞となりました。
被団協は、各都道府県にある広島・長崎の原爆被爆者団体の全国協議会で、1956年に発足しました。「ふたたび被爆者をつくらないために」という願いのもと、核兵器廃絶と原爆被害への国家補償要求、被爆者対策の充実など精力的な活動を行っています。
一方で、世界を見渡してみると紛争・戦争がなくなりません。ロシアのウクライナ侵攻、イスラエル=パレスチナ紛争、ミャンマーやスーダンの内戦など、現在でも世界各地に戦火が見られます。
1970年、国連は「核兵器の不拡散に関する条約」を発効しました。これはアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5か国を「核兵器国」と定めて、それ以外への核兵器の拡散を防止するものです。また、発電や医療など原子力の平和利用の促進が定められています。しかし、核保有国以外での核開発疑惑や、締結外の国で核実験が実施されるなど、その効力がしっかりと発揮されているとは言えない状況です。加えて、2017年に国連で採択された「核兵器禁止条約」は、核兵器の開発・実験・製造やそれによっての威嚇、使用が禁止されています。しかしこの条約に日本は参加していません。世界で唯一の被爆国として、核兵器の開発や使用を止めていかなければならない立場にある日本は、その役割をしっかりと果たしているとは言えないでしょう。
SDGs16番「平和と公正をすべての人に」のターゲット16.1には、すべての形態の暴力及び暴力に関連する死亡率を大幅に減少させるターゲットが設定されています。そのほかにも、法の支配の促進、組織犯罪や汚職の撲滅などが目標になっていて、平和の実現と公正な社会を生みだすことにより戦争のない安定した世界を作りあげることが求められています。
気候変動、自然破壊、貧富の差拡大、AIの進化、各国での極右政党の台頭など、世界情勢は不確実性が高まっています。そして、戦争、紛争では多くの人命が奪われ、核兵器が使われると一瞬にして人類が滅亡する可能性もあります。人間社会の持続的な繁栄を実現するためにも、今回のノーベル平和賞受賞が世界平和の実現に向けた足掛かりになることを期待したいものです。
【問いかけ例】
Q.世界各地で発生している戦争・紛争の原因にはどのようなことがあるだろうか?
* 歴史的経緯、宗教観の違い、支配者個人の妄想など、さまざまな原因が考えられることに加えてそれらが複雑に絡み合っており、原因を特定することが難しい。また、気候変動などによる経済的不平等の拡大が戦争・紛争を発生させる遠因にもなっていることも気づかせたい。
Q.戦争・紛争から逃れた人々に国際組織はどのような支援を行っているだろうか?
* 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)による難民保護や難民キャンプの運営管理、国連世界食糧計画(WFP)による食料支援、国連児童基金(UNICEF)による教育支援、国連人道問題調整事務所(OCHA)による国際的な人道援助の調整、国際赤十字による医療活動や安全な水の確保など、多方面の支援が行われている。加えて、国境なき医師団やセーブ・ザ・チルドレンといった非政府組織の中にも大規模な支援を展開している団体がある。しかしながら、これらは対処的な支援となっており、戦争・紛争の解決には別のアプローチも必要であることにも気づかせたい。
Q.戦争・紛争を起こさないために教育にはどのような役割があるだろうか?
* 世界にはさまざまな理由で学校に通うことができない子どもたちが数多く残されていることに注意が必要である。まず、このような子どもたちに教育の機会を提供する必要がある。そのうえで、平和的な価値観を醸成するために、民主主義や人道理解、多文化理解、批判的能力の育成などが必要だろう。
オリジナル資料
〈資料1〉は、「学習者用解説」と、「生徒への問いかけ例」をまとめたプリントです(A4×2枚)。〈資料2〉は、その月に取り上げるゴールに関連する「入試小論文過去問題」を紹介します。