● 一人暮らしの高齢女性 4割貧困(2024年3月8日の記事より)
今月のニュース記事
● 一人暮らしの高齢女性 4割貧困
東京都立大学・阿部彩(あべ・あや)教授の調査で、65歳以上の一人暮らしの女性の相対的貧困率が44.1%に上ることがわかった。厚生労働省が国民生活基礎調査で発表している現役世代のひとり親世帯(44.5%)と同じ、深刻な水準となっている。高齢期は働いて得る所得がなくなる、もしくは減ることが多く、男女とも貧困リスクが高い。また単身世帯は、ほかに稼ぎ手や年金の受け手がいる夫婦世帯などより貧困に陥りやすい。ただ、同じ「高齢」「単身」でも男性の貧困率は30.0%で、女性と開きがある。一方、総務省が全国家計構造調査(19年)に基づいて出す相対的貧困率でも、65歳以上の単身女性は35.1%、男性は20.3%となっている。20年の国勢調査では、高齢単身世帯は約672万人、そのうち約441万人を女性が占める。2040年には高齢単身女性は約540万人に達すると推計されており、今後さらに貧困問題が悪化するおそれがある。
(ニュースダイジェスト 2024年3月8日より)
指導のポイント
「今月のニュース記事」と関連のある目標について、指導の前に押さえておいていただきたいポイントを解説しています。まずは、各目標の概要やめざすところをご確認ください。
総務省は2023年10月1日現在の人口推計を発表、75歳以上の人口が2,000万人を超え総人口の16.1%と過去最高となった。高齢社会の到来は、高齢者の貧困という問題を浮き彫りにしている。新聞記事によると、厚生労働省と総務省の二つの統計から、多くの高齢者が貧困であることが明らかになり、特に、単身女性にその割合が高いことが示された。離婚率は減少傾向にあるものの、2022年には約18万組が離婚している現状を考えると、この問題は今後より深刻になるだろう。
世界経済フォーラムが毎年公表している「ジェンダーギャップ指数」によると、昨年のランキングでわが国は146か国中125位と低迷している。特に、性別の所得格差を指標に含む経済参画の側面では0.561と、男性の約半分のスコアとなっている。この現状からSDGs5番「ジェンダー平等を実現しよう」の達成は程遠い状況とも言える。
さらに、わが国では、6~7人に一人が相対的貧困状態にあり、子どもに関しては10%がそのような状態であるという統計的な結果は示されている。しかし、実態は地域社会の中に埋もれている可能性が高く、現状を把握するのは非常に難しい。
SDGs1番「貧困をなくそう」は、途上国の問題だと想起しがちであるが、私たちが暮らす地域の中にも確実に存在することを忘れてはならない。
学習者用解説
「今月のニュース記事」を学習者用にかみ砕いて解説しています。
SDGs5番「ジェンダー平等を実現しよう」には、女性に対する差別の撤廃や社会における女性の参画、リーダーシップの機会を確保することなどが目標として設定されています。しかし、現状では目標が達成に向かっていると言い難い状況にあります。
今回の新聞記事からは、わが国における単身高齢女性のおかれている経済状況が極めて厳しい状態にあることが明らかになりました。65歳以上の一人暮らし女性の相対的貧困率が44.1%に上っており、特に未婚者やパートナーと離別したケースでは、その割合が非常に高くなっていました。「相対的貧困」とは、等価可処分所得(*1)の中央値のおよそ半分以下の状態にあることを言います。「日本の場合、2018年の貧困ラインは127万円(一人世帯)です。(中略)2人世帯だと約180万円、3人世帯だと約220万円、4人世帯だと254万円」となっています(*2)。そして実に6~7人に一人が相対的貧困状態にあり、ひとり親家庭では50%を超えると言われています。また、「絶対的貧困」という言葉もあり、世界銀行の定義によると、1日2.15ドル未満で暮らす人がその状態であるとされていて、2022年には世界でおよそ6億8,500万人と推計されています。
一方、世界経済フォーラムが毎年公表する「ジェンダーギャップ指数」における日本のランクが、世界的にみても低いレベルであるのを聞いたことがある人は少なくないでしょう。この指標は、教育、健康、政治参画、経済参画の4側面において、女性がおかれている状況をいくつかの指標を設けて国別にランキングしたものです。2023年のランキングでは、わが国は調査した146か国中125位となっていて非常に後れをとっていると言わざるを得ません。特に、国会議員や閣僚の男女比などが指標になっている「政治参画」では0.057と、女性のスコアが男性の5%程度と、大きな格差が存在しています。また、賃金や管理職の男女格差などが指標になっている「経済参画」でも0.561と、女性は男性の約半分のスコアになっています。ジェンダー問題は、大胆な変革が必要な社会問題の一つであると言えるでしょう。
このように、高齢者の貧困問題は、ジェンダー格差の問題と相まってとても深刻な問題になっています。また、この問題はSDGs2番「飢餓をなくそう」、SDGs3番「すべての人に健康と福祉を」とも相互に影響していると考えることができるでしょう。さらに、この問題の難しさは、普段私たちが生活している中ではとても見えにくくなっている点が挙げられます。一人暮らしの高齢女性の中には、家の外に出て人と話したりすることが、肉体的、精神的に難しい方がいることは容易に想像できます。つまり、行政だけでなく地域社会全体で考えていく問題であると言えるでしょう。
*1…世帯の可処分所得を世帯人数の平方根で割ったもの
*2…SDGs ACTION「相対的貧困とは? 定義と現状、解決につながる対策を紹介」
長崎大学教育学部准教授 小西祐馬氏
相対的貧困とは? 定義と現状、解決につながる対策を紹介:朝日新聞SDGs ACTION!
【問いかけ例】
Q.単身高齢者のサポートとしてどのようなことが考えられるだろうか?
* 民生委員や社会福祉協議会、地域包括支援センター等による公的な見守り活動にとどまらず、地域の団体や住民相互による支援など、多角的なアプローチがなされていることを確認したい。加えて、今後は通信やセンサー等のテクノロジーを活用した支援も重要性が高まることを念頭において、どのようなサポートができるかを考えさせたい。
Q.経済的なジェンダーギャップを解消するにはどうすればよいか?
* 結婚や出産によるキャリアの中断がなくなるような施策を企業は積極的に行う必要があるだろう。この問題に先進的に取り組む企業・団体の事例を参照させたい。また、同一労働同一賃金を浸透させることや、非正規雇用の労働者数を減少させる努力も必要だろう。
Q.貧困状態におかれている子どもの支援として何が必要だろうか?
* 「子ども食堂」「フードドライブ」などの食事面の支援が考えられる。また、文具を提供する、宿題を手伝うといった学習支援も重要である。そのほかにも、衣服、友だちづくり、スポーツ等々、子どもたちのおかれている環境や、地域によってさまざまな取り組みが実施されていることを確認したい。そのような取り組みを通じて、子どもたちが健康な状態で日常生活を送り、学習の機会が十分に確保されることで、将来への希望を描くことができるようになるだろう。
オリジナル資料
〈資料1〉は、「学習者用解説」と、「生徒への問いかけ例」をまとめたプリントです(A4×2枚)。〈資料2〉は、その月に取り上げるゴールに関連する「入試小論文過去問題」を紹介します。