● 奄美大島・沖縄 世界遺産に(2021年7月27日の記事より)
今月のニュース記事
● 奄美大島・沖縄 世界遺産に
世界遺産委員会は、「奄美大島(あまみおおしま)、徳之島(とくのしま)、沖縄島北部及び西表島(いりおもてじま)」(鹿児島、沖縄両県)をユネスコの世界自然遺産に登録すると決めた。この地域は、約200万年前までにユーラシア大陸から離れた後、島が形づくられていくなかで孤立した生き物が独自に進化したため、世界的に希少な固有種が多い。またアマミノクロウサギやイリオモテヤマネコ、ヤンバルクイナなどの絶滅危惧種は95種に上り、豊かな生物多様性を守るために重要な地域であることが評価された。国内の自然遺産は2011年の小笠原(おがさわら)諸島(東京都)に続いて5件目となったが、ほかには有力な候補地はなく、奄美・沖縄が最後になる可能性が高い。
(第一小論net〈ニュースダイジェスト〉2021年7月27日の記事より)
指導のポイント
「今月のニュース記事」と関連のある目標について、指導の前に押さえておいていただきたいポイントを解説しています。まずは、各目標の概要やめざすところをご確認ください。
生物多様性の保全が危機的な状況と言える。世界の絶滅危惧種は35,765種で、調査された128,918種の約29%を占め、わが国の野生動植物も同様の割合の種が絶滅の危機に瀕している(*1)。SDGs15番「陸の豊かさも守ろう」では、生物の多様性を担保するターゲットが多数盛り込まれている。持続可能な土地・森林経営、土地の砂漠化への対処、密漁や違法取引の撲滅、外来種の侵入阻止などが、達成すべき指標として設定されている。
生物多様性条約は1992年に国連環境開発会議(UNCED/地球サミット)で署名され、国際社会が一体となって生物多様性の保全に努めていくことが約束されている(*2)。2010年に名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議では「愛知目標」が設定された。ここで設定された「目標2;遅くとも2020年までに、生物多様性の価値が、国と地方の開発及び貧困削減のための戦略や計画プロセスに統合され、適切な場合には国家勘定や報告制度に組み込まれている。」はSDGsのターゲット15.9を測定する指標に組み込まれている。また、2020年までだった愛知目標に代わる「ポスト2020目標」は2021年10月に開催される第15回会議で議論がなされる予定である(*3)。
今回世界自然遺産への登録が決定した奄美・沖縄地域は、世界的に希少な固有種や絶滅危惧種が多く存在することが評価された。世界人口の爆発的な増加と産業の発展が自然環境を破壊し、生物たちの生きる場所を奪ってしまっていることは疑いようがないだろう。この問題は国内だけではなく、世界が一体となって取り組まなければならない。
*1…WWFジャパン
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3559.html
*2…WWFジャパン
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3516.html
*3…環境省「みんなで学ぶ、みんなで守る生物多様性」
http://www.biodic.go.jp/biodiversity/index.html
学習者用解説
「今月のニュース記事」を学習者用にかみ砕いて解説しています。
オランウータン、トラ、ホッキョクグマ、ジャイアントパンダ、アオウミガメ…。皆さんもよく知っているこれらの動物は「絶滅危惧種」です。IUCN(国際自然保護連合)は絶滅の危機にある野生生物を「レッドリスト」としてその保護を訴えています。このリストによると、調査対象となった128,918種の野生生物のうち、35,765種が絶滅危惧種となっています(*1)。その原因はさまざまです。開発のためにそれらの動物が住む森林を伐採すること、商品としての動物に対する密漁や乱獲、農薬や水質汚染などの環境汚染、外来種の侵入による生態系の崩壊、森林火災や砂漠化などの原因とされる気候変動などがその主なものと言われています。いずれも私たち人間が原因を作り出していることは疑いようもありません。
1993年に発効した生物多様性条約では、国際社会が一体となって野生生物の保護を推進することが約束されています。2010年に愛知県名古屋市で開かれた生物多様性条約締約国会議では「愛知目標」が定められ、生物多様性を守っていくための方策が各国の政治に組み込まれていくことが確認されました。SDGs15番「陸の豊かさも守ろう」では、生物多様性の損失を阻止していくことがはっきりと目標として設定されています。ターゲット15.1は陸上や水域の生態系を保全すること、15.2や15.3は森林の適正な管理、15.7は密漁や違法取引の防止、15.8は外来種の侵入の防止など、さまざまなターゲットが盛り込まれています。また、SDGs14番「海の豊かさを守ろう」にも水産資源の保護が示されています。
今回、世界自然遺産に登録された奄美・沖縄地域は、世界的にも珍しい固有の生態系が存在し、生物多様性が残されている貴重な地域です。世界的な自然保護団体であるWWFジャパンは、この地域の保全に向けた課題として以下の4つを指摘しています。①登録地周辺や水域における開発や利用の増加、②希少野生生物の密猟・持ち出し・違法取引、③外来種の侵入による固有種への影響、④島内外での自然の価値の共有、です。現在でも希少野生動植物の違法採集や持ち出しが問題視されていますが、世界自然遺産に登録されたことで、人々の注目が集まり、さらに環境や生態系が破壊されたりすることには注意しなければなりません。
人間はこの地球上に暮らす多くの生物のほんの一つの種でしかありませんが、その人間がその他多くの生物の生存を脅かしていると言えます。私たち人間がこれまで行ってきた開発や発展のあり方を見直し、その他多くの生物と共生する道を模索していくことは、人間としての義務とも言えるでしょう。
*1…WWFジャパン
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3559.html
【問いかけ例】
Q.どうすれば森林の乱開発を食い止めることができるだろうか?
* 東南アジアや南米アマゾンでは、農地転用や居住地域の拡大から熱帯雨林が開発され、その面積が減少している。また、気候変動による火災も面積減少の原因である。森林の保全と、産業の発展や人間の生活の利便性追求がトレード・オフ(相反する関係)にあることを理解させたい。
Q.野生生物の密猟を防ぐにはどうすればよいだろうか?
* アフリカなどでは野生生物の密猟や密輸が後を絶たない。装飾品、皮革製品、ペット、はく製など、人間の嗜好品産業に関連している。これらは高く売れることもあるため、現地の人々の生活を支えている側面も否定できない。人間の生活、産業、野生生物保護といった多面的に考察しつつ、その原因と対策を考えさせたい。
Q.外来種の侵入を防ぐにはどうすればよいだろうか?
* 日本の湖沼や河川に外来種が棲みつき、日本固有の生態系が破壊されていることはTV番組などで知っている人も多いだろう。なぜ、自然環境の中に外来種が増えてしまうのか。その原因がペット産業やレジャー産業など、私たちの生活にも強く関連していることを意識して、その解決方法を考えさせたい。
オリジナル資料
〈資料1〉は、「学習者用解説」と、「生徒への問いかけ例」をまとめたプリントです(A4×2枚)。〈資料2〉は、その月に取り上げるゴールに関連する「入試小論文過去問題」を紹介します。